晨星、黎明に駆けて


「た、ただいま!」
「あっ、ようやく帰ってきた!おかえり、心配したんだからね。お父さーん?さな帰ってきたよー」
激しい息切れがして、帰ってきた頃にはへとへとだった。
奥からお父さんが慌ててこちらに向かってくる。
「おかえり。…こんな暗い中、一人で帰ってきたのか?」
「うん。でも大丈夫、ここまでずっと走ってきたから…」
これからもっと暗くなるのに、と言うお父さんの横を通り抜けて、私はソファーに倒れ込んだ。
走っただけの疲れじゃなくて、精神的にも疲れたような…。
きっとニアちゃんと話しているとき、気づかないうちにずっと気を張っていたのだ。
今日は早めに寝ようと思って、すぐにお風呂に入った。

お父さんやお母さんに今日のことを深掘りされる前に自分の部屋へ駆け込む。
ベッドに入り、寝るまでの間、ニアちゃんのことを考えてみる。
…結局、私が伝えたいことだけ言って、ニアちゃんに何もしてあげられなかった。
あの後はどうなったのだろう。みゆと和解できたならば、それはそれでいいのだけれど。
私たちのことを、理解してくれたのだろうか。
きっと、ニアちゃんのような人は、私たちから見えていないだけでたくさんいるのだと思う。
どこにも居場所がなかったり、突然なくなってしまったり。
それで心に傷を負った人も、心にぽっかり穴が開いてしまった人も、もう一度前を向こうと思える。ここはそんな場所なのに。
外側からじゃ、こんなことわからない。内側に入り込まなければ、本来の姿なんて見えない。
ほしかげ界隈の大切なものは何重にもベールで覆われている。それはほしかげ界隈のみんなの自衛の表れでもあり、簡単になくせるようなものではない。
どうしようもない苦しみを抱えた人たちが、そんなベールを見透かしてみようと思える動機さえ、作るのは難しいだろう。
そもそも、ここに来る人を減らすことが大前提だなんてことはわかっている。
しかし、それは簡単なようで、本当に難しい。
一人ひとりが置かれた環境で耳を澄まし、互いに心を同化させるように寄り添い、共に歩むようになるには、長い年月もかかればそれなりの数の人々も必要となる。
それが難しいからこそ、明るいところから暗いところへ行くまでの道のりに、ここがあるべきだと思う。
ぱっと立ち寄ってみるだけで、意外と心が晴れるかもしれない。
悩みや不安を忘れて、人の隣で、笑って話し合えるかもしれない。
夜が、君の味方になるかもしれない。
もっとここが、頼りたいと思ってもらえるような場所ならば。
本当のほしかげ界隈を、どうやったら世の中の人々にわかってもらえるのか。
ただの大きなギャップだけで見られて評価されるのは、もうこりごりだ。
ここは、悪い大人の傘下にあるわけじゃない。
そんな残酷な世界の端に佇む光だ。
私も、みゆと同じように、ほしかげ界隈を守りたい。