晨星、黎明に駆けて

今日は星霜ビルの広場に向かう日。
ゆのあくんとるのあちゃんがいるらしいけれど、みゆ曰く、ニアちゃんが来てから、いつもと様子が違うという。
二人も何かニアちゃんと関係があるのだろうか。
「さなちゃん、久しぶり」
るのあちゃんの声は少し元気がなく、いつもはスマホばかり見ているゆのあくんも、今日は周りをずっと見渡している。
「るのあちゃんもゆのあくんも、久しぶり。…どうかしたの?」
私は思い切って訊ねてみる。
すると、珍しくゆのあくんが口を開いた。
「さなは、ニアの話聞いた?」
みゆから聞いたよ、と言うと、ゆのあくんはそれじゃあ話が早いと呟いた。
透き通った、冷たい風が吹く。広場に落ちた木の葉が、からからと音を立てて舞った。
「ボクたちとニアは…。トラブルを起こしたことがあって」
「トラブル…?」
そう、とゆのあくんが頷く。そして、こう続けた。
「るのあが、ニアに誘拐されそうになったの」
私は、理解ができなかった。ニアちゃんが、るのあちゃんを誘拐?どうして?
信じていたニアちゃんの形が、ほろほろと崩れだす。
ゆのあくんが言うには、それが起こったのは、二人がここへ来て間もないときだったという。
二人で行動することが当たり前だったのだが、るのあちゃんが気になるものを見つけ、ゆのあくんから少し離れてしまった。
その僅かな隙に、ニアちゃんが細い路地へるのあちゃんを連れ込んだ。
理由は、るのあちゃんのような人を探していたから。
私が思うに、これはきっとニアちゃん一人だけの意思でこうなったのではない。ニアちゃんが誰かに命令されてした行動だと信じたい。
スマホですぐに連絡したるのあちゃんのもとに、間もなくゆのあくんが駆けつけた。
そこで必死にゆのあくんが抵抗して、なんとか助かったらしい。
しかし、ゆのあくんもるのあちゃんも、そのたった数分の出来事がトラウマになっているという。
「ニアもそうだと思うけど、ボクたちは人一倍ニアを嫌ってるから。特にるのあ」
ゆのあくんが、るのあちゃんを見つめる。
私は、るのあちゃんの真剣な瞳と目が合った。
「さなちゃんは絶対、ニアと関わっちゃだめ。あいつは手段を選ぶことなんかしない。さなちゃんみたいな人が、うちは一番心配だよ」
「ありがとう。…話をしたら、私たちのことわかってくれないかな」
願いを込めてそう言う。ゆのあくんが、首を振る。
「それは難しいと思う。だって、一番仲が良かったみゆができなかったんだから」
私は、少しだけ怖さがあった。
手段を選ばない。必死に言っても、聞いてくれたとしても、わかってくれないかもしれない。
それでも、信じなければ、もっと不可能に近くなる。
もしも私がニアちゃんに会ったら、どう言えばよいのだろう。
ニアちゃんの心の中の、あたたかい部分を信じさせてほしい。
ゆのあくんたちは、ニアちゃんがまたいつ来るかわからないので、早めに広場を後にした。
その後は、みゆと共にひかげくんとかかしくんのもとへ向かった。ニアちゃんの話が大半を占めた。
ひかげくんに、
「さなちゃんみたいな人は、一番気をつけたほうがいいよ。何かあったらいつでも頼って」
と言われ、かかしくんからも、
「あいつはまじでやばいよ」
とだけ言われた。
みんな口をそろえて言う。気をつけろと。
みゆもそれを否定しない。ということは、もし何かあったときに、私は抵抗できない。
しかし、私は信じる。喧嘩をしたいわけじゃない。口論になりたいわけでもない。
ただ、私もニアちゃんを信じるから、ニアちゃんも私たちを信じてほしいだけなんだよ。
最後にみゆに言われたのは、もし会ってしまっても、何も知らないかのように振る舞えということ。みゆが話をしてくれるから、さなはもう大丈夫だと。
それが私にできるだろうか。
こんな形で、本当にいいの?みゆはこれでいいの?
私はちゃんと、ニアちゃんに私たちのことをわかってほしい。
ニアちゃんを信じてみたい。