晨星、黎明に駆けて

「みゆ。きっと、ニアちゃんは本気でみゆのことを傷つけようとしてるわけじゃないと思うよ」
私はそっと、そんな言葉をこぼした。
みゆは俯いているため、どんな表情かはわからない。それでも、荒れた呼吸がゆっくりになっていくのがわかる。
「ニアちゃんは、みゆのことが心配なんじゃないかな」
心配な気持ちがあるから、いつまでもみゆのことを気にしていて。
みゆは頑張り屋さんだから、周りの人のことばかり考えて、気がつかないうちに、自分を犠牲にしていることがある。
それを、ニアちゃんはわかってるんじゃないかな。
だって、みゆの友達なんだから。
ただ不器用なだけで、本当はずっと、みゆが一人で潰れてしまわないか心配なのだと思う。
みゆがほしかげ界隈と関わり始めた頃にもっとも親しかった人ならば、そんな気持ちがあってもおかしくはない。
「…一つ、訊いてもいい?」
みゆが頷く。
私は、ずっと気になっていたことを、ここで訊ねた。
「どうして、みゆはほしかげ界隈の人を助けようとしてるの?」
その答えに、みゆがわからなくなってしまった目的の答えが見つかる気がした。
みゆがゆっくりと呼吸を整える。なかなか、みゆの返答が来ない。
本当に訊いてしまってよかったのか、後ろめたさが生まれてくる。
しかし、俯いていたみゆは顔を上げて、こちらを見た。
もう、その目に涙はなかった。
「…あたしは、ほしかげ界隈に恩返しがしたくて、それでみんなを助けてる」
力強い声だった。
燃えるような悔しさを胸に抱いて、それでも立ち向かおうとするみゆの姿に、一瞬、私の身体が震えた。
「自分を救ってくれた場所なの。そこで傷つくような人がいたり、悪い大人が入ってきたりして、周りの人たちに、ここは良くない場所なんだって思ってほしくない」
穏やかな団地の昼下がり、部屋に響き渡る、想いのこもった言葉たち。
暗闇の中で、必死に光を見つめて、這いつくばりながら前へと進もうとする、それはこの世で一番健気な、素直な言葉。
「うん…。私も、そう思うよ」
もう一度、みゆをまっすぐ見つめる。みゆは俯かなかった。
「みゆは、ほしかげ界隈がどんな場所であってほしい?」
そう訊ねれば、みゆはすぐに口を開いた。
「あたしはほしかげ界隈があったから、前を向けた。また頑張ってみようって思えた。あれは、そんな集団なの」
ほしかげ界隈は、居場所のない少年少女の集まりとされているけれど。
実際は、みんなで一緒に寄り添い合って、ゆっくりと成長していく場であって。
心の拠り所にもなる「集団」でもあれば、いつも必ず誰かがいる「場所」でもある。
みゆが大きく息を吸い込む。
「ほしかげ界隈が、本当につらい人を受け入れて、一緒に前を向いてみようって思えるような場所であってほしい」
私は大きく頷いて、その後、みゆに微笑んだ。
「きっとその想いを伝えれば、ニアちゃんもわかってくれると思うよ。みゆなら大丈夫」
みゆは少し目がくらんだだけで、わからなくなんかなっていないよ。
ニアちゃんだって、そんなみゆの姿を見れば、理解してくれるはず。
ニアちゃんがみゆの「友達」だってことを、私は信じてるよ。
「ありがとう、さな。…本当に、いつもありがとう」
「全然!ほら、チャーハン食べよ!コーンと食べると意外に美味しかった!」
そう笑顔で言う私に、みゆがふっと笑いをこぼした。
私はこんなことくらいしか力になれない。
だからせめて、幼馴染として、できることはするよ。