広場に着くと、一番最初に出会ったのはかかしくんだった。
みゆがどこにいるのか尋ねると、またこの前来た女の子のもとにいた。
かかしくんはみゆが話し終わるまで、私と待ってくれていた。
「…お前、たまには警戒心持ちな」
「警戒心、ですか?」
ん、と短く返事をした後、かかしくんはゆっくりと辺りを見回した。
金色の髪が風に吹かれて、その姿が大人だということを感じさせた。
「俺はお前のこと心配。こうやって二、三回くらいしか会ったことない人と平気で二人きりで話しちゃうし」
「人懐っこいところは、長所なんですけど…」
私は人と話すことが好き。かかしくんはふっと笑って、私を見つめた。
妹を見つめるような、優しい眼差しだった。
「ここにいるのは、いい奴だけじゃないから。基本はみんないい奴だよ。でも、そういうとこに、悪い奴が入り込んで来んの」
気をつけなよ、と言って、かかしくんはひかげくんのもとへ帰った。
あっさりと去っていくかかしくんに、私のありがとうございますという言葉が届いているといいのだけれど。
みゆがこちらへ向かってくる。第一声は「ごめん」だった。忙しい様子が見てわかる。
どうやら、女の子がここに来るのはあれ以来二回目だそうで、困っているという。
何よりも恐ろしいのは、同年代のグループに入ろうとするのではなく、自ら大人から声がかかるまで待っているということ。
僅かな光に向かって、一緒にもがきながら歩いていく人々が「ほしかげ界隈」であるはずなのに。
自分から、もっと暗い闇の深層に飛び込もうとするなんて。
「こういう子が本当に多くなってる。あたしたちみたいに曖昧な場所で立ち止まらないで、墜ちるなら真下まで墜ちようとするの」
「でも、きっと真下まで堕ちたら後悔するよね。…そこで初めて、こういうところに頼りたくなるんじゃない?」
みゆがじっと考えている。暗くなる時間が少しずつ早まってきたせいか、星の光が妙に目立つ。
曖昧でいい。自分はもう…、と諦めて、光のほうへ顔を向けることさえもやめてほしくない。
ここは、そんな人たちの居場所にもなれるのではないか。
「頼ってほしい。あたしは、一人でも多くの人が新しく良いスタートを切れるようになってほしい」
みゆの表情を見て、本当はここに来てほしくはないんだと改めて感じる。
複雑な、ほしかげ界隈のあり方。
「…ゆのあのことだけどさ。あの子がるのあを守ってるのは、ここに来る前からずっとなんだよ」
ゆのあくんの顔が、頭に浮かんでくる。
最初に出会ったときに私に向けた眼差しが、フラッシュバックする。
ゆのあくんは、親の暴力からるのあちゃんを守るために、必死だったという。
自分の身体が頑丈であるとわかり、華奢なるのあちゃんをずっと守ってきた。
「初めて二人がここへ来たとき、あたしはどうすればいいかわからなかった。二人とも、よく見ると傷がたくさんあって。声をかけたら、近づくな、ってゆのあに思いきり押し倒されちゃった」
初めの頃は、ゆのあくんがよく喧嘩をしたり、るのあちゃんも悪い大人に目をつけられることが多く、酷い状態だったらしい。
しかし、長い時間をかけて、みゆが根気強く二人と関わっていくと、徐々にお互いの誤解が解けていったという。
それでも過去のトラウマや置かれていた環境が原因で、特にゆのあくんは、初対面の人に対する警戒心や緊張が強いという性格が治せない。
そんな理由もあり、私と出会った初めはぎこちなかったのだ。
「ゆのあくんもるのあちゃんも、今までずっと、ずーっと頑張ってきたんだね」
私はそう言って、天を仰いだ。周りの人々の声が柔らかに聞こえてくる。
今はただ、ゆのあくんとるのあちゃんの頑張りを、抱きしめてあげたかった。
そして、みゆの頑張りも。
「わかってくれて嬉しいよ。さながここに来る間は、仲良くしてあげて」
二人のお母さんのような、お姉さんのような。みゆがそんなふうに見えた。
それから少しだけ話をして、今日は少し早めに帰った。
家に着いたら、ご飯を食べて、お風呂に入ってしまおう。
そうしたら、寝るまで全て、私の時間だ。
学校で感じた気持ちは、もう忘れていた。
みゆがどこにいるのか尋ねると、またこの前来た女の子のもとにいた。
かかしくんはみゆが話し終わるまで、私と待ってくれていた。
「…お前、たまには警戒心持ちな」
「警戒心、ですか?」
ん、と短く返事をした後、かかしくんはゆっくりと辺りを見回した。
金色の髪が風に吹かれて、その姿が大人だということを感じさせた。
「俺はお前のこと心配。こうやって二、三回くらいしか会ったことない人と平気で二人きりで話しちゃうし」
「人懐っこいところは、長所なんですけど…」
私は人と話すことが好き。かかしくんはふっと笑って、私を見つめた。
妹を見つめるような、優しい眼差しだった。
「ここにいるのは、いい奴だけじゃないから。基本はみんないい奴だよ。でも、そういうとこに、悪い奴が入り込んで来んの」
気をつけなよ、と言って、かかしくんはひかげくんのもとへ帰った。
あっさりと去っていくかかしくんに、私のありがとうございますという言葉が届いているといいのだけれど。
みゆがこちらへ向かってくる。第一声は「ごめん」だった。忙しい様子が見てわかる。
どうやら、女の子がここに来るのはあれ以来二回目だそうで、困っているという。
何よりも恐ろしいのは、同年代のグループに入ろうとするのではなく、自ら大人から声がかかるまで待っているということ。
僅かな光に向かって、一緒にもがきながら歩いていく人々が「ほしかげ界隈」であるはずなのに。
自分から、もっと暗い闇の深層に飛び込もうとするなんて。
「こういう子が本当に多くなってる。あたしたちみたいに曖昧な場所で立ち止まらないで、墜ちるなら真下まで墜ちようとするの」
「でも、きっと真下まで堕ちたら後悔するよね。…そこで初めて、こういうところに頼りたくなるんじゃない?」
みゆがじっと考えている。暗くなる時間が少しずつ早まってきたせいか、星の光が妙に目立つ。
曖昧でいい。自分はもう…、と諦めて、光のほうへ顔を向けることさえもやめてほしくない。
ここは、そんな人たちの居場所にもなれるのではないか。
「頼ってほしい。あたしは、一人でも多くの人が新しく良いスタートを切れるようになってほしい」
みゆの表情を見て、本当はここに来てほしくはないんだと改めて感じる。
複雑な、ほしかげ界隈のあり方。
「…ゆのあのことだけどさ。あの子がるのあを守ってるのは、ここに来る前からずっとなんだよ」
ゆのあくんの顔が、頭に浮かんでくる。
最初に出会ったときに私に向けた眼差しが、フラッシュバックする。
ゆのあくんは、親の暴力からるのあちゃんを守るために、必死だったという。
自分の身体が頑丈であるとわかり、華奢なるのあちゃんをずっと守ってきた。
「初めて二人がここへ来たとき、あたしはどうすればいいかわからなかった。二人とも、よく見ると傷がたくさんあって。声をかけたら、近づくな、ってゆのあに思いきり押し倒されちゃった」
初めの頃は、ゆのあくんがよく喧嘩をしたり、るのあちゃんも悪い大人に目をつけられることが多く、酷い状態だったらしい。
しかし、長い時間をかけて、みゆが根気強く二人と関わっていくと、徐々にお互いの誤解が解けていったという。
それでも過去のトラウマや置かれていた環境が原因で、特にゆのあくんは、初対面の人に対する警戒心や緊張が強いという性格が治せない。
そんな理由もあり、私と出会った初めはぎこちなかったのだ。
「ゆのあくんもるのあちゃんも、今までずっと、ずーっと頑張ってきたんだね」
私はそう言って、天を仰いだ。周りの人々の声が柔らかに聞こえてくる。
今はただ、ゆのあくんとるのあちゃんの頑張りを、抱きしめてあげたかった。
そして、みゆの頑張りも。
「わかってくれて嬉しいよ。さながここに来る間は、仲良くしてあげて」
二人のお母さんのような、お姉さんのような。みゆがそんなふうに見えた。
それから少しだけ話をして、今日は少し早めに帰った。
家に着いたら、ご飯を食べて、お風呂に入ってしまおう。
そうしたら、寝るまで全て、私の時間だ。
学校で感じた気持ちは、もう忘れていた。



