晨星、黎明に駆けて

るのあちゃんとは、広場まで色々なことを話した。
それでも、ほとんど詳しく教えてはもらえなかった。ゆのあくんと一緒にならば話せるらしい。
「二人とも、買ってきたよ」
落ち着いた声色に変化したるのあちゃんを、二人は凝視した。
二人に小声で話をするるのあちゃん。
「…よかった、さなもるのあも」
真っ先に胸をなでおろしたのはみゆだった。しかし、驚くべき人はゆのあくん。
ふ、と柔らかな微笑を浮かべた後、るのあちゃんによかったと言った。
ゆのあくんが、あんなに優しい柔らかな顔をするなんて。
その表情のまま、ゆのあくんは私の方を向く。
「さな、ありがとう。ボクもツンツンしてたと思うけど、それはるのあのためで…。ごめん」
「ううん!いいの。だって、こんな制服姿で毎週ここに来る人、いくらみゆの友達だとしても不思議だったよね」
そうじゃない、と、ゆのあくんは首を横に振る。
「るのあは人脈が広いから、トラブルに巻き込まれやすくて。それで、ボクは初対面の人は苦手なの。すぐ疑っちゃうというか」
確かに、初めてるのあちゃんに出会ったときは人脈が広いと言っていた。
るのあちゃんが人と関わることが好きでも、姉であるゆのあくんは、それがずっと心配なのかもしれない。
その気持ちは、きょうだいのいない私にもわかる気がした。
「基本サバサバしてるような双子だと思うけど、改めてよろしくね」
二人が私に心を開いてくれたような気がして、私の心もぽかぽかとあたたかくなった。
それからは、みんなで買ってきたものを食べたり話したりして過ごした。
今日初めて来た女の子は、みゆに本音を吐き出してくれたらしい。
またここに来てもいいかと訊かれると、みゆは、苦しくて居場所がここだけになったらね、と言ったそうだ。
そして、ゆのあくんとるのあちゃんについても話をした。
二人は二年ほど前からここへ来ているらしく、原因は家庭内暴力のエスカレート。
みゆに助けられ、今は二人で大人からの保護を受けながら生活しているという。
ゆのあくんは、るのあちゃんを守るために戦えば、それに勝てる人などいないほどの身体能力らしい。
一部では、「ほしかげの片翼」なんて呼ばれていたとか。全く本人は自覚がないようだったけれど。
今夜は門限ギリギリまで話をして帰った。
ほとんど笑いながら和気あいあいと話していたけれど。
本当に、それが儚くて。
どうしたらこの子たちの笑顔を守れるのだろうかと、寝る直前までずっと考えていた。

今日はみゆのもとへ行く日。
今朝、みゆから、ゆのあくんとるのあちゃんが遅れてくるから二人で話そうと連絡がきた。
二人きりで話すのは少し久しぶりだ。学校へ行っている間も、そわそわとしていた。
そんな日の授業で。
「じゃあ今から抜き打ちテストしようか。プリント配るよー」
教室にざわめきが起こった。
私が在籍しているのは特別進学コース。とは言っても、本当にすごいのは特別進学Sクラスというところで、突き抜けた学力を持ち合わせているわけではない。
特別進学Sクラスでは度々抜き打ちテストがあると聞いていたけれど、私のコースでもするなんて知らない…!
しかも単元は、文系の私にとっての難関である古文。問題は全部で五問、そのうち記述が二問。
「授業で教えた読み方で解いていけば、意外と大丈夫だと思いますよ!制限時間は十分」
ピッ、とタイマーの音が鳴ってから教室が静まり返るまでは一瞬だった。
段々とシャープペンシルを動かす音が増えていく。
…解けない。記述からが進まない。
授業はしっかり聞いていた。課題も、出される前に進めておいた。
足りないものがあったとするならば、復習の時間だ。
他の教科もテストが多く、今復習をする必要はないと思っていた。それに、みゆたちにも会いに行って…。
いや、違う。会いに行くのはたったの毎週二日。家に帰ってきてからも、勉強する時間は確保できる。
絶対に、ほしかげ界隈のせいにしたくない。
みゆたちのせいにするな。…今回失敗したのは、私自身のせいだ。
そう自分に言い聞かせていると、あっという間にテストは終わってしまった。
友達に、どうだったと出来を訊かれる。全然だめだった、と正直に言ってみる。
「さなが全然だめだなんて珍しいね」
そんなことないよ、でも今回のはやばかったな。私はそう言った。
…普段からできるみたいに思われていると、ときどきつらくなる。
勉強も運動もまあまあなはずなのに。まあまあだから頑張っているのに。
学校は楽しい。勉強も運動も、みんなでやってみることも楽しい。
それでもときどき、つらくなる瞬間がある。
今日は、早くみゆのもとへ行きたい。