晨星、黎明に駆けて

「本っ当に、すみませんでした…」
これは同一人物なのだろうか。
ひかげくんとかかしくんに出会ってから、初めての広場。
その入り口には金髪の男の人が立っていて、私が近づくなり、すぐにこう頭を下げた。
これって、かかしくんなんだよね…?
「えっと、この前のことなら、全然…!」
「本当ごめん。俺、絶対変なこと言ってた。改めて、かかしって言います。よろしく」
もはやこれが初対面だと思えるほど、ギャップがものすごい。
あの日輝いて見えた金髪は落ち着いて見えるし、声も低くなっているし、何よりドライ感が半端ない。
これは、確かにお兄さん…。
「酒癖さえ悪くなければねー」
後ろからひょこっと顔を出したのは、みゆとひかげくん。
そこは俺も思ってる、と呟いたかかしくんの表情が、どん底だった。
「一応、俺も大人だから。…何かあったら言って」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
かかしくんは、少しだけ微笑んで、ひかげくんといつもの場所に戻っていった。
私もみゆとの定位置に戻ろうと思うと、そこにはゆのあくんとるのあちゃんの姿があった。
…私も、少しずつここに慣れてきているのかもしれない。
顔を見て名前が浮かぶ人がたくさんできたし、雰囲気にも慣れてきた。
「さなちゃん久しぶり!」
るのあちゃんが、こちらに手を振ってくれる。その動作が幼くて、いつ見ても可愛く思えてしまう。
「るのあちゃん!ゆのあくんも、元気そうで何より」
「どーも」
スマホに釘付けかと思っていたゆのあくんの目線が、ちらっと私に向いて、少し嬉しかった。
るのあちゃんはスマホを見ているよりも、色々なグループに声をかけ、遊びに行っていることが多い印象だ。
双子だと、共通点と相違点がはっきりしていておもしろい。
近状報告とやらをしていると、突然、ゆのあくんがパッと顔を上げ、広場の入り口に目をやった。
「…あの子、はじめましてだよ。みゆ」
私もつられて、ゆのあくんの目線の先を追う。
オーバーサイズの薄手のTシャツを着て、一人で立っている小柄な女の子。
リュックは背負っているものの、とても小さくて頼りない。何かが入っているのかもわからない。
ゆのあくんの言葉に対して、みゆは頷いた。ゆっくりと。初めから、わかっていたように。
みゆが、コンビニのビニール袋を片手に駆け寄っていく。
「さなちゃん、今日はここでうちらと留守番だね」
るのあちゃんが私の隣に座る。
私は、みゆの行動をじっと見ていた。普段はスマホばっかりの、ゆのあくんも。
みゆが女の子に話しかける。少しだけ反発される。
それでも、諦めずに声をかけ続ける。みゆはきっと、女の子が関わりやすいような姿で、今、寄り添おうとしている。
…やっぱり、私とみゆは似てる。
気がついたものは、放っておけなかったり。見捨てられなかったり。
それが原因で、自分の心が苦しくなることだってあるけれど。
それでも私たちは、真っ正面から、壁に突き進む方を選ぶ。
やがて二人は座って、ゆっくりと話し始めた。
みゆは話をゆっくりと聞いていた。頷くだけで、女の子が話している間は、みゆが口をはさむことはなかった。
ビニール袋から、コンビニで買ったであろうパンを差し出すみゆ。
女の子は、その瞬間に、泣いた。感情の溢れ出すままに泣いているようだった。
「…ねぇ、さなちゃん。みゆって、すごいと思わない?あそこに入ってるもの、全部自腹で買った物なんだよ」
るのあちゃんが。みゆの方を見ながら言った。
「昼間はバイトしてお金貯めて、夜はほとんどここへ来て。…もう、お節介とかじゃないよね」
その目には、うるうるとした輝きが浮かんでいた。
るのあちゃんのまっすぐに見つめる道の先に、みゆがいるのかもしれない。そう思った。
そうか。みゆは、昼間にバイトをして、ここへ来ているんだ。
そうとなれば、やはり学校は…。
また、暗いほうへ思考が傾こうとする。
それでも、少し先で、つらく苦しい人に寄り添う親友がいる。
その姿を見るだけで、私の心に光がさして、そこに手を伸ばしたくなる。
再び、前を向ける。
「…うん。そうなんだよ、るのあちゃん」
私は口を開く。
「これが私の、自慢の幼馴染なんだ」
気がつけば、私は笑顔だった。
形だけじゃない。他の目的のための行動じゃない。
みゆは、そんな気持ちで動いているんじゃない。
そんな私の幼馴染が、尊敬できて、誇らしくて、私は胸がいっぱいになった。
あの頃からずっと変わらないみゆの良さが、真っ暗闇にぽっと優しい光を灯すようで。
るのあちゃんが、驚いたような顔でこちらを見る。
「るのあちゃん?どうかした?」
「…ううん、何でもない。ちょっとぼーっとしてただけ!」
るのあちゃんが、驚いただけではなく、何か考えるような顔でこちらを見ていたのは気のせいだろうか。
ゆのあくんもこちらを見て、それでもすぐに目をそらした。
「女の子、帰ったみたい。てゆーか、なんかお腹すいた」
ふぅ、と、ゆのあくんが緊張が抜けたように息を吐いた。
みゆもこちらに向かってきて、私まで肩の力が抜けたような感覚になる。
「うちもお腹すいたなー…。じゃあ、さなちゃん!一緒に何か買いに行かない?」
「えっ、私ここら辺のお店はよくわかってなくて…」
うちが一緒に行くから大丈夫!というので、るのあちゃんについていくことにした。