【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる










「咲さま、お美しかったですね~! 長とダンスを踊られたときに、ふわあってドレスが膨らんだのが、特にお綺麗でした!」

宮城でのパーティーが終わり、眞人が用意した馬車で戻る道すがら。スズは興奮した状態でほっぺたのてっぺんをつやつやにして手足をバタバタさせた。そんなスズに、ハチもうんうん、と頷いている。

「お花の精霊さまみたいでした、咲さま!」

ふたりの賛辞に、緋色のドレスにローブを着た咲は手をもじもじさせて、向かいに座っている千牙を見る。彼もスズたちの言葉に頷いて、しかしやや渋面を作った。

「だが、やはり咲の美しさは男どもを惑わせたな……。なんだ、あの、握手を求める男どもの大群は……。片端から斬ってしまおうかと思ったくらいだ。いやしかし、もうあの世界に咲が舞い戻ることの無いことが、唯一の救いではあるが……」

渋い顔のままぶつぶつと言っている千牙を、小夜が生ぬるい目で見て嘆息する。

「長……。くれぐれも里に帰るまでに、その子供っぽい顔をどうにかなさってくださいね……」
「お前も、渇望するものを得たことが無いから、そのように言うのだ」

以前、スズに言ったことと同じようなことを、今度は小夜に言う。あのときは咲もその気持ちが分からなかったが、今なら分かるので、彼らの間でなんと言ったものかと迷って、黙って下を向いた。

やがて、ガタン、と馬車が止まって、狭間と接する鳥居まで来る。この先の狭間からは、鬼火の馬車に乗り換えるので、一旦みんなで馬車を降りる。眞人がここまでわざわざ馬車を用意してくれたのは、彼の領域から旅立つ咲に対する、最大限の謝意だった。

自分を降ろした千牙が機嫌良くその肩を抱いて歩もうとしたのを、咲はくっと背に力を入れて、立ち止まる。

「咲?」

不意に立ち止まった咲をいぶかしげに見た千牙にほほえんで、咲は背後の人界を振り返り、見渡した。そして、深々と頭を下げる。

「今までお世話になりました。この世界での生は正直辛いものだったけど、でもそれがなかったら千牙さんには会えなかった……。わたしを生んでくれた世界と、家族のみんな。ありがとうございました」

咲は、いまこのときまでの時間に対して、感謝の念を人界に渡した。咲の行動に目を見開いていた千牙も、おだやかでやさしい眼差しになる。他の三人も、同様だった。
腰を折ったまま、深呼吸をする。そして体を起こして、千牙たちを振り返った。人界に背を向け、咲は歩き出す。
数歩先で、千牙が手を差し出して、待っている。

「咲」

やさしく輝くような笑顔に引き寄せられるように、咲はその手を取った。





鳥居を潜った言の葉の巫女は、人妖調停者の、末なる御寮となった。