「解呪……、ですか? 声を使わず?」
狭間の見通しのきかない空に、光の粒が吸い込まれていく。やがてその場にいた悪鬼が消え、やや緊張感を解いた小夜が咲に問う。咲は地面に指で文字を書いた。
(たんぽぽの生気が血を付けることで里の方の腹を満たしたので、血は贄である私自身なのだと思いました。ならば、文字に私が習得した巫女の力を宿せないかと)
風花から習ってきたのは、巫女としての力を、声を介して言葉で使役する作法だ。咲が禊のための清水を作れたり、生気の宿った草を作れたのが、咲自身に巫女としての力がちゃんとあることの証明だとしたら、巫女の力を声以外に宿せないだろうか、と思い至ったのだ。
「なるほど……。ではその方法で、長を助けられますか?」
そうか。力を削がれた今の千牙は、力と名があっていない状態で、それは呪を掛けられた朧と似て、環境に左右される。であれば、咲のすべきことは定まってくる。
咲は小夜に対してこくりと力強く頷いた。しかし鏡を灯影のところに置いてきてしまったし、咲は言霊を使う相手を見ての練習しかしたことがない。この場にいない千牙への言霊の行使は出来なかった。
(すみません……)
落胆大きく、肩を落とす。もっといろんな練習をしておけば良かった。そんな悔いばかりが咲の胸に渦巻く。しかし小夜は首を振り、あなたはよくやっておられます、と励ましてくれた。
「しかし、これですべきことは明確になりましたね。我々は、なんとしてでも長を見つけ出さなければならない」
力強い眼差しをする小夜に、本当にそうだと咲も頷く。小夜は再び咲を連れて千牙の屋敷を目指した。



