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咲と小夜は、狭間にいた。
咲が屋敷に連れてこられたときは宮城の扉が灯影の屋敷の扉に繋がっていたり、灯影の屋敷を小夜に連れられて出ると帝都の町並みではなく狭間のどこかに出たりしていて、一体、あの屋敷への出入りはどうなっているのだろう。疑問の顔に、小夜が答える。
「私たちの鬼火が狭間にいる我々と里を直線で繋ぐ効果があるのと同様、あの狐は恐らく狐火で狭間の中を自分の屋敷と繋げているのでしょう。長が悪食ものとしてあの狐を縛ったことで、呪に縛られた狐は力を恐ろしく少なくしたはずです。だから帝都に紛れ込めたのかも知れません。長は定期的に人界を視察しておられましたから、そのときに見つけられなかった理由はそれでしょう」
小夜の説明にこくこくと頷く。しかしそんなのんきな空気も直ぐに霧散する。向こうの方に悪鬼がいたのだ。灯影が鏡で見せた悪鬼の中の一体に違いない。
悪鬼は咲たちを見つけてこちらに向かってきた。小夜は咲を守ろうとして刀を構えるが、躊躇の様子を見せている。
「まずいですね……。私の刀では長の太刀のように彼らに掛けられた呪を切ってやることが出来ない。この刀で切れば、彼らが苦しむだけです」
しかし小夜も咲も、悪鬼に喰われるわけにはいかない。そのとき、ふと以前のことを思い出した。
邑の外で贄としてくくられた時、鬼は朧であったハチやスズに向かってきたわけではなかったから、あのときの鬼の目的は恐らく咲だったはず。だとすれば、今悪鬼が狙っているのも、小夜ではなく咲だ。
ならば、咲が小夜から遠ざかることが先決だ。咲は小夜に降ろしてもらうように頼むと、そこから一気に駆けた。
「咲さま!?」
突然自分から離れていく咲を、小夜が驚きで追う。しかし咲は手で来るなと示して、地面に転がっていた手のひらくらいの大きさの石を拾った。そして。
(別に痛いことなんてないわ)
そう決意して、屋敷で縄を削って傷ついていた指先の皮をめくる。びりっと痛みが走るが、それを耐え、滲んだ血で石に簡単な文字を書く。
――『エキケイシュク』
そしてそれを悪鬼に向かって投げつけた。石が当たった悪鬼はその形を崩して輝く光の粒となる。小夜が、おお、と目を見開いた。



