励まされても、鏡越しに見た千牙と芙蓉の様子が思い出されて、信じることが出来ない。弱々しく首を振る咲に、ふたりは黙ってしまった。
ややあって、小夜が口を開く。
「しかし、咲さまにかかるまじないを解かねば、この状況は打開できませんね……」
逆言葉を覆すには、やはり同じ言霊の力を借りないと、出来ない。だが咲の声は奪われたままだ。
しかし千牙を助けるには彼の許へ行く必要があり、小夜が分からないと言った千牙の居場所は、先ほど鏡で見せられたから分かる。
(わたしを抱えて飛べますか? 狭間の鳥居のところからなら、千牙さんのところへ案内できます)
咲が地面に書くと、小夜は頷いた。
「スズ、直ぐに咲さまご無事を里に知らせて朧を待機させろ。お前たちにしか、出来ないことがある」
*
体の内から声に操られる。体から抜け落ちてしまったかのような真名に、しかし体が反応し、応じざるを得ない。
「桜玉さま」
呼ばれれば体がそちらを振り向く。指の赤がやけに視界に際立って映る。女はそれを撫でながら言葉を続けた。
「桜玉さま。いまあの愚かな無能がこちらに向かっているのですって。桜玉さまのお言葉で、あの娘を排除してくださいな。桜玉さまがひとこと要らないとおっしゃってくださったら、それでいいのです。無能なあの娘がこれ以上勘違いをしてあなたの妻の幸せを壊さないためにも」
おっしゃって。お姉さまを捨ててやると。
耳にこだまする声が、里の桜を揺らす。桜が振動して声をはねのけようとするように、千牙の周りで放電が起こった。パリパリと小さな音をさせて空気が震え、光の刃は女の指先に傷を作る。それでも女は諦めなかった。
「ねえ、おっしゃって」
鼓膜に絡みつくような声にあらがう体と、行動を促す内なる力。かすかな正気で女の言葉に頷かない。
(私の御寮は、咲以外にありえない)
力をなでつけられ、猫をなだめるような圧力が掛かる。
(咲……。どこにいる、咲……)
明けない夜に声を放つように、千牙は叫び続けた。



