ハチの言葉を聞き遂げると、小夜は咲を抱えて扉を出、跳躍に跳躍を重ねて、狭間のどこかにたどり着いた。小夜が咲を連れてきた場所にはスズが待ち構えていて、彼女は咲の姿を見ると、目に涙を浮かべた。
「さっ、咲さまあ! ご無事で何よりですう!」
わああん、と泣いて咲の胸に駆け込んでくるスズの頭を撫でてやる。しかし彼女も咲が言葉を発しないのをいぶかしげに見上げた。
そんな中、小夜は咲の前で腰を折り、こうべを垂れる。
「咲さま、そのお守りを身につけていてくださって、ありがとうございました。おそらくあいつが長の呪を解いたことで、削がれた長の気配を閉じ込めて見えなくしたらしく、我らでは長のいる場所までたどり着けませんでした。名を架した呪が解かれたことで長の力は削がれましたが、『いなく』なったわけではありません。長がご無事な間に咲さまにたどり着けて良かった……。声が出ないのはなにかまじないですか?」
まじないなのだろうか、とにかく灯影にもらった飴を舐めたあとからのだと、木の枝で地面に文字を書き説明する。合わせて灯影の呪を解いてしまったことも記す。とにかく罪悪感が大きいが、自分が起こした問題を、咲ひとりでは解決できないと思ったからだ。
説明を読むと、スズは飴の薬効を推測して、なにそれひっどいです! と憤慨してくれた。その様子に少し心がほぐれてしまう。咲は宮城を連れ出されてから以来何日かぶりに、肩の力を抜いた。
そして、スズやハチの言動に救われている自分がいることに気付く。彼らは咲を案じてくれた。彼らにとって、咲は命の価値ある存在なのだ。
(嬉しい……。でも、でもどこか、やっぱり……)
心の一番奥に、ぽっかりと穴が開いてしまったようだった。スズたちに微笑むことは出来ても、それは満面の笑みにはならない。自分の身勝手さに項垂れてるが、そんな咲を励まそうとするかのように、スズが咲にぎゅっと抱きついてくれた。
「咲さま、そんなにお辛いのに笑おうとしないでください。そいつの呪を解いたのは咲さまの本意ではありませんし、咲さまがご無事だったことそれだけで、もう良いじゃないですか。咲さまに万が一のことがあったら、長が悲しまれます」
スズの言葉に微笑みたいが、しかし鏡に映った千牙と芙蓉の様子が思い出されて、笑おうにも笑えなくなる。
咲はスズに、千牙が荷を重く感じていたこと、咲では彼に安らぎを与えられなかったことを文字で示した。それを読んだ小夜が、首をきっぱりと横に振る。
「長ほどの方が、名を預けられたのです。咲さまは自信を持って良い」



