(駄目……! これ以上、この人の思うとおりにはさせない……!)
咲は決意を持って彼に体当たりをした。不意を突かれた灯影は腰を折っていた分、体の均衡を崩し後ろに倒れる。
「うわっ!」
(今だわ……!)
咲は寝台から一気に飛び上がった。灯影がいない間にこつこつと爪で縄を削っていたのだ。おかげで指先の爪はぼろぼろで、血も滲んだりしているけど、そんなことどうでも良かった。とにかくこの屋敷から逃げ出して、千牙のところへ行かなければ。
階段を駆け下り、玄関へ向かう。階上からバタンと扉の開く音がして、灯影が追ってきたことを知らせた。焦る手で玄関のノブを回すも、扉は開かない。
(どうして……!)
焦る咲の背後から、一段一段階段を降りてくる音がする。背後を取られたくなくて、咲は振り向き正面に灯影を見た。薄ら笑う灯影はもう一度口を開く。
「悪い子ですね。お人形はおとなしく座っているものですよ」
粘着質な声が、この場の打開策を持たない咲を恐怖に縛る。そのとき。
「咲さま!」
バン! と大きな音がして背後の扉が開いた。はっと振り返るとそこには小夜とハチがいた。咲は大きな目を見開く。
扉が青白い炎で焼かれていて、彼らの向こうには宮城の廊下も帝都の景色もまるでなく、そこは巫女修行の時に通ったことのある狭間のどこかだった。
灯影が咲をこの屋敷に連れてきたと同じで、空間がねじ曲がってる。小夜たちがそこを通ってきたことに驚くが、今の咲はそれよりも自分の味方が現れたことの方が大きな驚きだった。
(小夜さん……! ハチ……!)
しかし、そうやって口を開いても喉から声は出ない。小夜は咲の様子を敏感に察知し、次に灯影に視線をやった。彼女の瞳が剣呑に光る。ハチは驚愕の表情だ。
「貴様……、どうやって長の呪を……!」
小夜のその言葉で、咲は彼女が灯影と彼に施された千牙の封じについて知っているのだと理解した。
ハチが咲の前に立ち、灯影に向かって木刀を構える。灯影がハチをすがめた目で見つめた瞬間、小夜が咲の肩を抱くようにしてハチの後ろに下がった。しかし咲はそれに首を振って抵抗する。
(駄目……! あの人は悪鬼を喰うと言ってた。きっとあのひとがハチの言っていた悪食ものなんだわ……!)
顕現したハチは鏡の向こうの朧のように引っ張られないと思うが、それにしたって咲の胸は心配で埋め尽くされてしまう。なのにハチは咲を振り返ってにっかりと笑った。
「咲さま、どうかご心配なさらないでください。咲さまと長にいただいた命です。大事にします」
咲は決意を持って彼に体当たりをした。不意を突かれた灯影は腰を折っていた分、体の均衡を崩し後ろに倒れる。
「うわっ!」
(今だわ……!)
咲は寝台から一気に飛び上がった。灯影がいない間にこつこつと爪で縄を削っていたのだ。おかげで指先の爪はぼろぼろで、血も滲んだりしているけど、そんなことどうでも良かった。とにかくこの屋敷から逃げ出して、千牙のところへ行かなければ。
階段を駆け下り、玄関へ向かう。階上からバタンと扉の開く音がして、灯影が追ってきたことを知らせた。焦る手で玄関のノブを回すも、扉は開かない。
(どうして……!)
焦る咲の背後から、一段一段階段を降りてくる音がする。背後を取られたくなくて、咲は振り向き正面に灯影を見た。薄ら笑う灯影はもう一度口を開く。
「悪い子ですね。お人形はおとなしく座っているものですよ」
粘着質な声が、この場の打開策を持たない咲を恐怖に縛る。そのとき。
「咲さま!」
バン! と大きな音がして背後の扉が開いた。はっと振り返るとそこには小夜とハチがいた。咲は大きな目を見開く。
扉が青白い炎で焼かれていて、彼らの向こうには宮城の廊下も帝都の景色もまるでなく、そこは巫女修行の時に通ったことのある狭間のどこかだった。
灯影が咲をこの屋敷に連れてきたと同じで、空間がねじ曲がってる。小夜たちがそこを通ってきたことに驚くが、今の咲はそれよりも自分の味方が現れたことの方が大きな驚きだった。
(小夜さん……! ハチ……!)
しかし、そうやって口を開いても喉から声は出ない。小夜は咲の様子を敏感に察知し、次に灯影に視線をやった。彼女の瞳が剣呑に光る。ハチは驚愕の表情だ。
「貴様……、どうやって長の呪を……!」
小夜のその言葉で、咲は彼女が灯影と彼に施された千牙の封じについて知っているのだと理解した。
ハチが咲の前に立ち、灯影に向かって木刀を構える。灯影がハチをすがめた目で見つめた瞬間、小夜が咲の肩を抱くようにしてハチの後ろに下がった。しかし咲はそれに首を振って抵抗する。
(駄目……! あの人は悪鬼を喰うと言ってた。きっとあのひとがハチの言っていた悪食ものなんだわ……!)
顕現したハチは鏡の向こうの朧のように引っ張られないと思うが、それにしたって咲の胸は心配で埋め尽くされてしまう。なのにハチは咲を振り返ってにっかりと笑った。
「咲さま、どうかご心配なさらないでください。咲さまと長にいただいた命です。大事にします」



