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ギシリ、と寝台の音がする。身じろぎしたって、手足を拘束した縄が解けるわけではない。しかし、こんな状況になっているのを、打破したかった。
芙蓉に部屋に閉じ込められてからどのくらい経った頃だったか、あの青年が部屋に戻ってきて、咲の体を担ぎ上げてここまで連れてきた。
ここがどういう場所なのか、咲には分からない。青年は咲を抱えてあの部屋を出たあと、廊下の先にある扉を開けて、この屋敷にやってきた。屋敷は豪華な作りではあるが、普通の……、つまり宮城とは違う市井にあるような家の作りで、言ってみれば千牙が咲に部屋を与えたあの洋風の屋敷のような作りなので、宮城の扉で繋がっていることが明らかにおかしいと思えた。
咲はその屋敷の二階の一番奥にある部屋の寝台に縄で繋がれて、身動きの出来ない状態のまま今に至る。既にあれから何日か経ったが、咲は拘束を解きこの部屋から逃げ出すことも出来ていない。
(おかしいわ……。だって、披露目の直前だったのに、私がいなくなっても誰も探しに来てくれなかった。それに芙蓉が持っていった巫女装束は、どうなったというの……)
自分の隣に並び立つのが楽しみだと言ってくれた千牙の言葉を信じているが、だったら戻らぬ咲を探しに来てくれても良さそうなものだった。
(ううん。きっと、千牙さんたちは探してくれているはず……。宮城の扉がこの屋敷に通じてるなんて、みんな知らないんだから、早く縄を解いて、宮城に戻らないと……)
後ろ手に縛られた手首を無理矢理動かしてみても、手首がすれるだけでまったく緩む気配はない。それでもなんとかしたくてジタバタしている。
不意に、ドアノブの廻る音がした。ガチャリと音をさせて部屋に入ってきたのは、あの青年だった。
「ご気分はいかがですか」
人の良い笑みを浮かべているが、咲をここに閉じ込めた張本人である。勿論笑みなど浮かべられるわけもなく、声が出ないのも、恐らくこの青年にもらった飴のせいだろうから、やはり微笑めるわけがない。
咲はここから出してほしいという強い意志を滲ませて、彼を睨み付けた。そんな咲を、彼は細い目を更に細くして見つめる。
「あなたのおかげで、僕は自由の身になれました。ご恩はきちんとお返ししたいのです。
そんなの要らない。ここから千牙のところへ返してほしい。そう訴えるが、彼は目を細めて微笑むばかりだ。
「あなたは彼の真名をご存じだったと思いますが、では今、彼はいますか?」
まるで千牙の存在を否定するかのような青年の言葉に咲はいぶかしげに眉を上げる。そして千牙を探そうと、袷の中に持っていた鏡に意識を向けて、妖界を見渡したときの要領で彼の気配を探る。しかし、人妖界のどこにも、彼の気配はうかがえなかった。



