【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる




宮城に戻ると、眞人と風花が出迎えてくれた。千牙から、無事神への挨拶が済んだことを知らされ、二人が安堵してくれたので、咲としてもまたひとつ肩の荷を降ろすことが出来た。咲に向かって、風花が言う。

「装束は授業をしたに用意してあります。民への披露目まで、まだ少し時間はありますが、もう着替えておきますか?」

きっと余裕を持って準備をさせてくれようとしているのだろう。しかし、緊張が解けたからか、喉の渇きを感じる。さっきのことを思い出すと、ミコトに対して言葉を発するときに、口の中はからからに乾いていたように思う。

「すみません、ちょっとお水をいただいてきてもいいいでしょうか」

巫女修行の授業をした部屋なら、城の井戸から水が引いてあった。清水を作る水もそこから取っていたし、あの部屋なら咲もひと息つける思い、三人に許可を貰って席を外させてもらう。三人は微笑んで頷いてくれた。






「いやあ、以前会ったときよりも格段に美しくなっているね。あなたも大変なことだ」

部屋を出て行った咲を見送った眞人が感心したように言う。確かに修行に来ていた頃と比べると、磨き上げられたような美しさを持つようになった、と風花も思う。

「披露目のために用意した巫女装束も、さぞかし似合われることでしょうね。私たちも、用意した甲斐があったというものです」
「あなたが見つけた巫女を飾るのだからと言って、風花が張り切るものだから、困ってしまった。でも、あの衣はきっと似合うだろうな」

二人の言葉に感謝する。しかし彼らからは失笑された。

「なぜ、笑う」
「いや、あなたの巫女を褒めたのに、そんなに苦虫をかみつぶしたような顔をされずともよいだろうにと思ってね」
「私にとってはかわいい弟子でもありますので、飾ることを嫌がられるのは少々不本意です」

二人の言葉に窓の方を見てみると、確かに面白くなさそうな顔をした自分がいた。

「まあ、分からないでもないですよ。ああ美しくなられては、あなたも心が落ち着かないしょう。だが、あなたは彼女を神にも渡さないと言っていたのだから、民に見せるくらいを嫌がらないでほしい」

年下の眞人に諭されてしまって、頭を掻く思いだ。己の隣に並び立つ、巫女装束姿の咲を想うと、心が満ち足りてくる。

彼女の輝くような装束姿は、さぞ美しいことだろう。その彼女が、もう一度あの潤んだ瞳で己を見ることを、砂漠が水を求めるより強く、渇望している。
時が彼女をさらうよりも深く、想いを交わせたら、どんなにいいことだろうか。名を預けること以上の衝動を、人である彼女が分かるとは思えないが。

「……そうだな。要は咲が私を見てくれれば、よいのだな」

眞人に応じることで、叶わぬ未来と位置づける。己の生は、常に諦めと共に在った。去って行ったものたちの、想いはすでに色あせていて。
……別に、今回が特別であるわけではない。

ゆがんだ笑みが、口の端に浮かぶが、直ぐに消えた。