「はい」
「おぬしの力、ここで示せるか」
観察するようなミコトの視線に、千牙が自分を推薦するに相応しいのか試されているのだと分かった。緊張に、喉が鳴る。
(この場で、どうやって……? でも、言霊の力を示さなかったら、千牙さんの立場も、私がすべきこともなくなってしまう……)
生気を宿した草を妖界の人すべてに届け続けたい。人界の人たちを怖れから解き放ちたい。咲は視線を地面に落とした。青々とした植物は、清らかなこの空間に相応しく、静かにそこにある。そのひとつに視線を注いだ。
この場にある木の葉に力を込めて見せようと、葉を摘み取ろうと手を動かそうとした。しかしそこで、ふと考える。でもそれは、ミコトが真に納得する方法なのだろうか。
神々は、人界から妖界に贄……つまり生気を届けることを約束させた。あやかしが生き延びるためには。人間の犠牲もやむなし、という判断だからだろう。だったら、草や木の葉に生気を宿らせたって、それは神々にとって本当(・・)に(・)必要なことではないような気がする。
(どうしたらミコトさまに納得してもらえる力の示し方が出来るのかしら……。ミコトさまが、いちばん納得してくださる方法は……)
ミコトは検分する視線のままだ。
(そうだわ……)
あやかしは、力を保つ為の名を持つ。なら、今明かされたミコトの名は?
「では、わたしの口にまじないを。我に【役】する。御名を決して縛らぬよう」
千牙の真名を書き換えてしまって、彼の生を変えてしまった。神に対して、それは行ってはいけない。
千牙が咲を見て目を見張る。静かに言い終わると、ミコトは、くっ、と息を漏らし、それから高らかに笑い声を上げた。
「は、は、は! 力の示し方として、これ以上ないことをするのだな、娘。なるほど、確かにお前の力は我を守るべく発された。真なる名ではないとはいえ、お前がそう誓いを立てたことは、評価しよう」
大きな声に肩が跳ねたが、しっかりとした眼差しで口の端を上げて貰ったことにはほっと息を吐いた。とりあえず、千牙がこの場に連れてきてくれたことに報いることが出来たかと思う。
「この件、上には通しておこう。あとはお前のほころびが悪く廻らんようにするのだな」
言葉の後ろ半分を千牙に向かって、ミコトが向ける。綻ぶとは何のことか分からなかったが、彼がしっかりと頷いて、御意、と返したので心配は要らないのだろう。
千牙が咲を見て微笑んでくれたので、やっと肩の荷が下りた気がして微笑み返すことが出来た。ぽん、と彼の大きな手が頭の上に乗る。それだけでも嬉しい褒美だ。咲は最後に深く頭を下げる千牙に倣ってミコトに対して頭を垂れると、奥社を後にした。



