【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる






いよいよ当日。咲は千牙に伴われ、宮城の奥社に足を運んだ。社の敷地に立つ鳥居は妖界と人界を結ぶ鳥居とはまた違う雰囲気で、朱の色がやけにどっしりとしている。周りには大きな木々が立ち並び、どこからか水の音も聞こえて、辺り一帯に清涼かつ神々しい空気が漂っていた。
鳥居をくぐって真っ直ぐ伸びる白い砂利道を進めば、視線の先に大きな社が建っていた。古式ゆかしい~~式の作りで、いかにもこの国を見守る神々のおわす場所だと感じる。

社よりかなり手前で、千牙がその歩を止めた。咲も倣う。彼はその場で深く敬礼をし、申し述べた。

「御前(おんまえ)へ参じ奉る。ここに言の葉の巫女をお連れ申した。ついては目通りをつかまつりたい」

朗々とよく通る声が辺りに響くと、音もなく社の扉が開き、そこから光が差した。まぶしさに目を細める。
光の中には、ひとりの男が立っていた。柔和な眼差しに、銀に輝く長い髪。千牙と比べると雄々しさはなく、中性的な印象を受ける。しかしそれがかえってこの世の存在とかけ離れた印象を与えており、咲はきゅっと腹に力を込めた。改めて深く腰を折る。

(この方が、この国を守ってくださっている神さま……)

遙か昔に人界と妖界の調和を取ってくれた存在。そして千牙に両界の調停を命じ、真名を封じた人。
咲は大いなる感謝と共に、少しの苦い気持ちを胸に抱いた。もし千牙の真名を取り上げなければ、彼は自分で任を継ぐ後継への代替わりができ、自らを殺す存在を求めなくても良かった。咲の思いをよそに、神さまは薄い唇を開いた。

「千牙、久しいの。息災であったか」
「ミコトさまもお変わりなきご様子、お慶び申し上げます」

神さまの呼びかけに、千牙は再度深くこうべを垂れた。咲は彼の言葉で、神さまが『ミコト』という名であることを知る。ミコトは鷹揚に頷くと、ちら、と先に視線を向けた。

「そのものが言の葉の巫女か」
「はい。人界の贄の問題を解決する力を持つことが分かりました。今後は妖界で働いてもらうべく、本日目通りつかまつりました」
「ほう、贄の問題を」

頭上で交わされる会話を、頭を下げたまま聞く。娘、と呼びかけられて、顔を上げた。