不意に、彼女が裾に躓く。それを支えるために、腕を伸ばした。
ぽすりと軽やかに腕の中に収まった咲は、頭部を庇うためか、千牙の胸に手を着いてそこに顔を埋めていた。そろり、と視線が上げられ、きらめく眼差しと間近で視線が合った。小さな唇が、頼りなげに、動く。
「にあい、……ますか……?」
不安で不安で、仕方がない、といった声音。甘く甘く耳に響くそれに、頷いて返す。
「西洋の絵画から抜け出てきた姫君のようだ。おぬしのことを愚弄するものが居たら、私がたたき切ろう」
その言葉に、幾分安心したようだった。ほっと息を吐いて、やっと微笑む。
「千牙さんのお隣に立つのに相応しければ、当日も頑張って着ます」
「おぬしが相応しくないなど、一度も思ったことはないがな」
本気でそう笑ってやると、やっと本来の微笑みを取り戻す。千牙は店員に視線で促し、合わせる靴やアクセサリーを持ってこさせた。
「高い踵は慣れておられないようですので、なるべく低いこちらでいかがでしょう。ドレスの襟が詰まっておりますので、装飾品は髪留めやイヤリングなどで華やかにされると宜しいかと」
白い靴は中央に赤い石のはまったピンクのリボンが飾られ、イヤリングも赤い硝子玉の揺らめく品物だ。それらを見定め、頷いて促すと、千牙は咲を大きな鏡の前に立たせた。
「披露目の場には私も同席する。おぬしの隣に並ぶのが楽しみだな」
鏡の中の彼女にそういうと、ぱっとこちらを向いた。
「一緒にいてくれるのですか?」
「ああ。おぬしが嫌なら、せぬが」
「とんでもないです! 私の披露目としか聞いていなくて、ひとりで参加しなければいけないのかと思っていました」
人界への披露目だと言ってあったので、そう思ったのかもしれない。千牙は目を細めて彼女を見つめた。
「そんな冷たいことはせぬよ。そもそも眞人がおぬしを国の民や要人に紹介する場だ。眞人は必ずいるし、おぬしを救いの巫女として推薦した私だって参加する権利は持っている」
「良かった……。帝都の方は知らない方ばかりですし、そもそも邑から出たことのなかった私がひとりで務まるのかと……。安心しました」
安堵の息まで漏らしているから、相当気負っていたのだと分かる。悪いことをしたと彼女に謝罪すると、女性の店員が細部の寸法を確認し、咲の体に合わせるよう直すことを勧めてくれた。勿論彼女に不格好な姿をさせるつもりはないから、それを頼み、隅々まで寸法を確認された咲は、ふたたび試着室の扉の向こうへ消える。緋色を纏った咲が視界から消えて、千牙はどうしようもない衝動に突き動かされた。



