「なにかご希望の型、色がございましたら、持って参りますが」
主に、千牙に向けた言葉だった。出資主だし、当然の問いだ。しかし、それに対して彼は首を横に振る。
「私の好みが出ると、彼女を一番に輝かせられるか分からない。それでなくとも、贈った着物が偏っているというのに」
「それはそれで、宜しいかと思いますが……。ではお嬢さまのご希望はございますか? お好きな形、お好きな色がございましたら」
不意に選択権がくるが、目の前に並んだ洋装はどれも素晴らしく、とても咲には選べない。でも。
「緋色の、ものが良いです……。美しく、鮮やかな赤色が、好きなのです……」
好きなもの、なんて、咲の人生にはなかった。与えられるものが全てで、なにかを望む人生ではなかった。
住まいが邑から里に変わっても、それは同じだった。だがそのことに不満があるわけではなく、ただ自分が行うことを認めて貰えるだけで、満足だった。だからなにかを望もうなどと、思わなかった。
なのに今、彼に問いかけられて、自分の中に、特別なものがあると分かった。それは咲を勇気づけ、安心させ、ずっと見ていたいと思う、色だった。
邑にいた頃なら、きっと芙蓉や富子にしか似合わない色だと思っていただろう。だが、今は自分が、その色を、着てみたい、と思う。
咲の答えに、千牙が目を瞠る。店員は笑みで目を細くした。そして吊られているドレスの中から、一着を選び出してくれた。
「こちらですと、肌の露出は少のうございますし、お嬢さまのご希望に叶う、美しい赤かと思います」
ふわり、と目の前に出されたドレスは、確かに鮮やかで美しい緋色だった。
立て襟に白いひだの装飾が施され、袖は上部こそ膨らんでいるが、全体的に腕に沿うような形になっている。胴がこんなに細く作られているのか、と驚くが、細い胴とは反対に、腰から下はふんわりとした形で百合の花のように布が広がり、裾は幾重にも重なっている。袖と沢山の裾には、襟と同じく白い装飾が施されていた。
他にも布と布の継ぎ目には金色の凝ったひもが縫い飾られてあり、襟から続く胸の途中までや、袖の先、背中には同色の留め具が施されている。装飾こそ少ないが、それにより赤色がとても映える品物だった。咲はそのドレスに見とれ、小さく、素敵です、と伝えた。
「お気に召していただけて、良うございました。では試着をしてみましょうか。背中の釦はうちの店員が留めますので、心配はございません」
彼の言葉に頷き、ひとりの女性店員と共に、扉の付いた部屋に入る。咲を見送った千牙が、ふう、と息を吐いた。店員がまたも、微笑む。
「美しい方でございますね。きっと、華やかな赤がよくお似合いになることでしょう」
主に、千牙に向けた言葉だった。出資主だし、当然の問いだ。しかし、それに対して彼は首を横に振る。
「私の好みが出ると、彼女を一番に輝かせられるか分からない。それでなくとも、贈った着物が偏っているというのに」
「それはそれで、宜しいかと思いますが……。ではお嬢さまのご希望はございますか? お好きな形、お好きな色がございましたら」
不意に選択権がくるが、目の前に並んだ洋装はどれも素晴らしく、とても咲には選べない。でも。
「緋色の、ものが良いです……。美しく、鮮やかな赤色が、好きなのです……」
好きなもの、なんて、咲の人生にはなかった。与えられるものが全てで、なにかを望む人生ではなかった。
住まいが邑から里に変わっても、それは同じだった。だがそのことに不満があるわけではなく、ただ自分が行うことを認めて貰えるだけで、満足だった。だからなにかを望もうなどと、思わなかった。
なのに今、彼に問いかけられて、自分の中に、特別なものがあると分かった。それは咲を勇気づけ、安心させ、ずっと見ていたいと思う、色だった。
邑にいた頃なら、きっと芙蓉や富子にしか似合わない色だと思っていただろう。だが、今は自分が、その色を、着てみたい、と思う。
咲の答えに、千牙が目を瞠る。店員は笑みで目を細くした。そして吊られているドレスの中から、一着を選び出してくれた。
「こちらですと、肌の露出は少のうございますし、お嬢さまのご希望に叶う、美しい赤かと思います」
ふわり、と目の前に出されたドレスは、確かに鮮やかで美しい緋色だった。
立て襟に白いひだの装飾が施され、袖は上部こそ膨らんでいるが、全体的に腕に沿うような形になっている。胴がこんなに細く作られているのか、と驚くが、細い胴とは反対に、腰から下はふんわりとした形で百合の花のように布が広がり、裾は幾重にも重なっている。袖と沢山の裾には、襟と同じく白い装飾が施されていた。
他にも布と布の継ぎ目には金色の凝ったひもが縫い飾られてあり、襟から続く胸の途中までや、袖の先、背中には同色の留め具が施されている。装飾こそ少ないが、それにより赤色がとても映える品物だった。咲はそのドレスに見とれ、小さく、素敵です、と伝えた。
「お気に召していただけて、良うございました。では試着をしてみましょうか。背中の釦はうちの店員が留めますので、心配はございません」
彼の言葉に頷き、ひとりの女性店員と共に、扉の付いた部屋に入る。咲を見送った千牙が、ふう、と息を吐いた。店員がまたも、微笑む。
「美しい方でございますね。きっと、華やかな赤がよくお似合いになることでしょう」



