「彼女が大事なパーティーで一番映えるドレスを選びたい。いくらでも払おう。アクセサリーなども揃えてほしい」
いくらでも!?
驚いていると、店員は、かしこまりました、と満面の笑みになって咲に視線を寄越した。そして、うんうん、というように頷いた。
「お嬢さまは色が白くていらっしゃる。きっと華やかな色がお似合いでしょう。ドレスは初めてですか?」
問われて、戸惑いながら、はい、と頷く。
「でしたら、肌を見せるのは慣れておられないでしょう。首元は詰めた方が宜しいですね」
「そうだな。彼女の肌を他の男が見ると思うと、はらわたが煮えるからな」
千牙の物言いに、店員が上品に笑う。
「それはそれは、お嬢さまは大変でいらっしゃる。おや、どうされました?」
彼らの間で納得し合っていることに疑問を抱いたことが伝わったらしい。こちらに向いた視線に、里で鬼たちに会ったときのことを説明する。
「いえ……。以前、他の方の前で腕を出しましたが、千牙さんは特に問題視されなかったようなので、なぜ肌を見せるとはらわたが煮えるのかなと……」
それに、邑では芙蓉たちのようにきちんと着物を着ていられたわけではない。炊事洗濯の時は袖をくくって腕を出していたし、畑仕事の時は裾がまくれても気にする暇もなかった。
今でこそ綺麗な着物を着てしずしずと過ごす時間が多くなったが、千牙に助けて貰ったときだって、騒動で着物がまくれていたことだろう。
だから、今更他の人が自分の肌を見ようが、別に特異なことであるわけがない。それを怒る理由もないと思う。
二つの視線に答えたわけだが、彼らは咲の言葉にきょとんとする。そして店員がくすっと笑い、千牙は小さく嘆息した。
「あ、の?」
彼らの反応で、問いに対する答えが不正解だったことが分かる。しかし、なにが間違っているのかは分からない。さらに疑問で返すと、千牙は、いや、いい、と咲の頭を撫でた。
「咲はそのままで良い。そのままで既に十分なのだからな」
解が間違っているのに十分と言われて悩む。家族は咲の家事に至らないところがあると折檻したのに。
今は邑での生活とは違う、と分かっている、しかし、努力の結果が実れば認められるのは分かっていても、間違っていても良い、と言われるのは理解が及ばない。
だが、千牙の穏やかな微笑みを見ると、それ以上のことは聞けなくて、結局咲は黙った。話題を戻すように店員が咲たちを並べられているドレスの前へ案内した。



