聞き慣れない言葉を繰り返すと、知らぬか、と千牙が説明してくれる。
「様々な品を扱う店だ。旧い時代のように着物なども扱うが、今だと洋装品なども多く揃えている。咲が初めてなら、見物がてら行くのも良いだろう。スズ、神々に会うときの着物も勿論だが、街歩き用の着物も選んでくれるか。流石に同じもので街を歩くわけにもいくまい」
「お任せ下さい、長~! ああ、腕がなりますね! どのお着物をお召し頂こうかしら! 長、出立までの間、着物の吟味に時間を下さい!」
構わんぞ、と返事を貰った彼女は、早速衣装部屋へと飛んで行った。スズが部屋を出て行ったので、ハチも部屋を出ていく。室内には咲と千牙の二人だけになり、空気が緩んだのが分かった。
大きな彼の手が頬を包み、すこしひんやりとした親指の腹の体温で、するりと肌を撫でられた。常日頃気を張っている彼のやわらいだ姿に、咲も気持ちを安らかにする。
「本当に、よくやってくれた……。おぬしが居てくれることで、私は救われる……。おぬしと出会えたことは、私にとってなににも代えがたい運命だと思うよ……」
吐息を吐くように呟かれたそれは、責という荷を降ろした安堵にも聞こえる。……また、風花の言葉が耳に蘇る。
――「もし万が一のことがあった場合は、あなたがこの『真言葉』で調停者さまを正してください。場合によっては……」
どうしても避けたいその言葉の指し示す未来の恐ろしさにふるり、と体を震わせると、千牙が気付いて顔を近づけ、額を合わせてきた。……さらり、と彼の美しい前髪が咲の目の前に落ちかかり、美しい濡羽色の間から緋い瞳がこちらを見つめる。
「頼んだぞ……」
ともすれば聞き逃してしまいそうなほどかすかな声で、彼は言った。その、他に逃げ道を許さない生き様に、咲の胸がぎゅうっと絞られる。
(私は、自分に与えられた贄という役割を自分の勝手で避けたのに、千牙さんは、万が一の時にもそうしないんだわ……)
こんなにも与えられた役割に真摯に向き合っている人に、そんな未来が来なければ良い。
咲は、会ったこともない神々に、そう願ってしまった。



