【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる


必死の形相に、灯影も頷いてくれた。

「調停者さまを、正気に戻さねばならないですね……。それに、陛下の御名で姉君が認められてしまえば、人界でその方の立場は覆らない……」

恐ろしいことだった。あの無能が、自分より遙か上に誇り立つなど、認められるはずがない。しかし、今の芙蓉は破妖の力も奪われて、調停者の青年の目に留まることも、難しい。

「巫女なら……、言霊を操れたり、するのだろうか……」

ぽつり、と灯影が呟いた。芙蓉の頭に、鬼が光の粒になっていったときの記憶が蘇る。あのときあの青年は、咲の言葉を『解呪』と言わなかったか。

「灯影さま、言霊、とは……、なにかに掛けられたまじないを『解呪』することも、出来るのですか……?」

芙蓉の言葉に、彼はああ、と頷いて、説明してくれた。

「巫女は神へ願いや祈りを奉じるときなどに、『言霊』の力と文法を使いこなし、役割を果たすと聞いています。おそらく言葉に命じることで、まじないを解くことも、出来るでしょう」

パチッと、芙蓉の頭の中で符号が嵌まった。

「私たちが邑を追われる前、姉が『解呪』を行ったと、調停者さまが言っていました。では、姉はその『言霊』とやらを使って、調停者さまを……!?」

彼女の言葉に、灯影が視線を強くして、深く頷く。

「取り上げられている方が巫女であることは、調停者さまご自身が陛下にご連絡されております。新しく巫女になったその方が言霊を悪行に使っているのなら、そのことを知っている我々がなんとしてでもそれを止めなければ……」

彼の言葉に、芙蓉は心の底でほくそ笑んだ。自分たちだけでは咲を引きずり下ろせないが、色々知っていそうなこの男がいれば、願望は叶うかもしれない。

「姉の過ちは妹である私が正すべきです。それが血の繋がったきょうだいというものですから。それに、私は破妖師です。その力であやかしの蛮行をいさめ、人々に慎ましくあるよう説くことで、調停者さまのお役に立てます」
「調停者さまのお力になりたいというあなたのお気持ち、とても美しいと思います。力を持つ方は、お考えになることが違う。きっと調停者さまに選ばれるのがあなたなら、人界は平和になると思います。僕にも、その助力をさせてください。人界のためにと思えば、奔走できます」

ありがとうございます、と芙蓉は優美に微笑んだ。灯影も細い目をより細くして、微笑む。

「まず、書庫を紐解く時間を下さい。なるべく早く、策を練りましょう」

お願いします、と芙蓉は頭を下げた。

(これであの方の隣に並び立てるわ……。あの美しい方に選ばれるのは、私なのよ……!)