【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる



「お加減はどうですか?」

真っ白な壁な壁に半円のステンドグラスを上部に持つ大きな洋窓。天井からは蔓のような曲線を描くシャンデリアがミルク色の洋燈を支えている。床には花模様の描かれたふかふかの絨毯。壁際には装飾の豪奢な鏡台とキャビネットがしつらえられている。

圧倒的に富をつぎ込まれていると分かる部屋で、ふたつの大きなベッドに上体を起こしていた包帯だらけの芙蓉と富子に声を掛けたのは、狐のような糸目の物腰やわらかな青年だった。

「ありがとうございます、灯影(ほかげ)さま。おかげで母も私も、傷は随分癒えて参りました。隣の部屋の父はどうでしょうか」
「ああ、ご心配に及びませんよ。お父さまも順調に回復してきてらっしゃいます」
「良かった……! 本当に、灯影さまにはお礼のしようがございませんわ。あやかしに追いかけられていた私たちなんて、灯影さまから見たら恐ろしかったでしょうに、安全な馬車の中に匿ってくださっただけでなく、邑を追われた私たちを帝都まで連れてきてくださって……。本当にお礼のしようがございません。ありがとうございます」

灯影の好意的な様子に、芙蓉は涙を浮かべてしおらしく謝意を表した。住まいを追われたか弱い女を装っておけば、人の良さそうな目の前の青年が、訴えた不運な境遇に同情して、自分たちをこの屋敷に客人としてずっと置いてはくれないだろうか、あわよくば、この金持ちの妻になれないだろうか、と、内心考えているだけなのだが。

(人の良さそうな方だもの。こんな美しい私が住まいを追われるだなんていう不幸にあっているのを、きっと見過ごしたりしないわ)

そんな計算高い芙蓉の様子に同調したのか、灯影はこれまた細い眉尻を少し上げて、考える。

「礼には及びませんよ、困ったときはお互い様です。……しかし、妙ですね。妖界には先日贄が届けられていたのではなかったのかな……。政府の発表ではそう聞いているのですが、贄の件と、神隠しの件は、別々の要因なんだろうか……」

ぽそりと呟かれた灯影の言葉に、芙蓉は疑問を持つ。

「神隠し……、ですか? 神隠しって、あれですよね、人間が突然神さまにさらわれてしまうという……。幼い子供が対象だと聞きますが……」

芙蓉の言葉に灯影は物憂げに頷いた。

「そうです。正確には年齢性別問わず、失踪が続いているのです。政府も対応に乗り出しているらしいのですが、今のところ芳しい成果がみられないようで……。それで、贄の時期が近づいてきているから、あやかしが取って喰っているのだという噂になっていたのです……。しかし先日、贄が妖界に引き渡されたという話でしたので、収まるかと思いきや、芙蓉さんたちがあやかしに襲われておられたので……」

灯影の話にピンときた芙蓉は、これ幸いと涙ながらに訴えた。