帝都に届いた千牙からの文に、眞人は驚きの顔を見せた。すぐさま風花を呼び、その朗報を知らせると共に、そのようなことが可能であるなら、人界の巫女も生気をみなぎらせた植物を栽培すれば良かったではないか、と零した。風花は、なるほど、という顔をする。
「古来よりずっと、私たちは、贄は人間(・・)で(・)なければ(・・・・)ならない(・・・・)、と思い込んできました。そう古き協定に明記されているからです。ですが、咲さんはその協定の真なる意味に気づかれた……、ということなのですね……」
確かに命ある草に、人間の生気を持たせることは、水に清水たれと任じることと同じで、可能だろう。しかし、これは妖界に足を踏み入れ、あやかし側の事情を理解した咲だからこそ、たどり着けた解であり、人界から出ることのなかったほかの巫女たちには難しい解釈だ。
「あやかしの命が『草の命』で補えるなど、私たちには想像できませんでしたから」
彼らと接し、日々向き合っている人間の彼女にしか、分からなかった。そしてその妖界へ行けたのは、彼女が千牙の目に留まったから。
「咲さんが調停者さまに出会われて歩まれた軌跡が、この結果に結びついておられるのでしたら、人界のものとして、これ以上の幸いはございませんね」
「そうだな。調停者殿もそうだが、我々も得がたい存在を得たものだと思うよ」
人界長として、古来より人々を恐怖たらしめてきた贄問題の解決などあり得ないと思っていた。先祖代々、その責務と犠牲の履行を負ってきた眞人の血筋は、ただただ民への陳謝の念しかなく、自らの無力さの前に項垂れるしかなかったのだ。
「命の草が本格的に運用されるとなれば、人界長として、咲殿の功績を賛ずべく、大々的に披露目を行おう」
「神々にも披露目をしていただいた方が宜しいですね。咲さんが神々を前に真(まこと)を誓ってくだされば、この上なく安心です」
風花の言葉に、眞人は疑問を口にした。
「と申すと?」
「咲さんは調停者さまの真名を握っておられますので、ご自身に誓いを立てていただきたいのです。それは私たちが相手でも不足ですし、調停者さまご自身でも、おそらく足りないでしょう」
「なるほど。まさに神を相手に咲殿自身の力で縛るわけだな」
「そうです」
力を得たものの責務だ、と眞人も首肯する。
「咲さんなら、大丈夫でしょうけれど」
風花も彼女の人柄を思い出し、微笑んだ。



