【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる


「咲さま! この草はもう収穫して良いのですか?」

スズが畑で大きく成長した草を指し示して咲の指示を仰ぐ。
最初の命の草の栽培に成功してからひと月あまり。小夜に許可を得て借り受けた屋敷内の畑で、咲は毎日草の栽培に精を出した。邑で畑の世話をしていたことを思えば、里では食事だって出るし、他に労働らしい労働もしない。久しぶりの畑仕事を、むしろ楽しんでいるくらいだった。

咲はスズの呼びかけに立ち上がり、今し方植えた苗に言霊を施した清水を掛けてから、彼女の方へと歩み寄った。
青々と美しい葉は、あのときの鬼たちが教えてくれたように、瑞々しい生気をみなぎらせていた。

「そうね。ここらはもう収穫しましょう。生育を早める命(めい)もうまく回っているみたい」

咲の言葉に、スズが畑から草を収穫していく。蓑に積み上げられた青い草は、咲には普通の草にしか見えないが、手伝っている鬼たちが目を輝かせているので、やっぱりこれは彼らの食事になり得るのだと実感する。

「咲さまの術はすごいですねえ! 命の草が出来ちゃったり、その草からいっぱいその子供が出来ちゃったり、この前まではひとつき掛かっていた草の生育が、たった三日で達成されてしまうようになったり!」

十年目の贄だった咲の命の代わりを、なるべく早くに妖界全体に行き渡らせたくて、いろいろ試した結果だ。失敗も色々あったが、結果としてここまでたどり着けて、ほっとしている。
そこへ千牙が様子を見にやってきた。

「順調そうだな。そろそろ人界に報告を出しても良いか?」
「あ、そうですね……。栽培に失敗したらと思っていましたが、なんとか軌道に乗りそうなので」

咲のいらえに、そうか、と微笑んだ千牙が、小夜に何かを命じる。以前は千牙の信頼厚い小夜のことを羨ましく思っていたが、今では千牙が彼女を重用するのにも、心は波立たなくなった。自分も、彼の役に立てていると実感できているからだ。

(風花さんに教えていただいたことが、朧の名付け以外にも役立っているし……。頑張ればいろんなことが出来るんだわ……)

そう思いながら小夜の背中と見送っていた咲の頭を、歩み寄ってきた千牙が撫でてくれた。

「さて、休憩にせぬか。桜玉も、そう言っている」
彼の言葉に、首にかけたお守りを見れば、小さくぱちぱちと空気を爆ぜて、力の使い過ぎをいさめてくれていた。
咲は微笑んで頷いた。