【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる

「千牙さん。この草は、千牙さんのおなかを満たすことは出来ますか?」

唐突な彼女の話に面食らうが、千牙は渡された草を受け取り、咲が見つめる中、手の中の草に目を落とす。そして、手の中に置かれたたった一本の、何の変哲もない草から感じる生気に、一驚した。

「咲……。これは、どういうことだ……。なにかのまじないか……?」

たった一本の草から、並々ならぬ生気を感じる。……そう、それはまるで、人間の生気のように瑞々しく、したたり落ちるような生々しさを備えていた。
千牙の驚きに、咲はほっと安堵の笑みを零した。からくりを説明してくれる。

「風花さんの許で、言霊の使い方を勉強していたときに、禊に使う水と塩に役割を任じたのです。そうすることで、塩と水が一層清らかになり、巫女としての能力を高めると、お伺いしました。なので、同じ方法で、草に多くの生気を宿らせることは出来ないかと、考えたのです」
「……贄の……、代替品か……!」

目を見開いた千牙の言葉に、咲がにっこりと微笑む。

「はい。先日、贄であった私が喰われていないことで、この方々が大変な目に遭っていると知りました」

咲が視線を向けた咲には、体を縮こまらせた三人の鬼が居る。里のものと分かる三人は、千牙が視線を向けると畳の上から正座した膝を飛び上がらせて震え上がった。
咲の言うことは事実だが、贄は彼女の前から滞り続けていた。つまり、この鬼たちが、そして今の妖界のものが飢えているのは、咲だけの責任ではない。反射的に刺すような視線を向けてしまったが、この方たちが屋敷に運んでくれたんです、と彼女が言うので、視線を彼女に戻した。

丁度眞人との話の中で、人界での贄の押し付け合いの話を聞いてきたばかりだ。まさか帰郷してその解決策が用意されているとは思わなかった。千牙は震える手で、咲の手を握った。

「よくぞ……、よくぞこのようなことを思いついてくれた……。この案は、人妖両界を救うぞ……!」

旧き時代からの両界の軋轢が終わる……。両界の調停者として、これほど嬉しいことはない。

「咲!」

千牙は歓喜のあまり、寝ていた咲を抱き起して抱きしめた。きゃっ、と驚いて小さく悲鳴を上げた咲が、しかしおとなしく腕の中に抱かれてくれている。

「おぬしは本当に素晴らしい巫女だ……。おぬしに初めて会ったとき、こんな未来が待っているとは思わなかった……!」

咲は千牙の問題とひとつ、またひとつと解決していく。その行為は千牙が負ってきた辛さから解放してくれるもので、彼女という存在に、多方面から救われる。

なんという、僥倖な出会いであったのだろう。あの出会いから、千牙の運命がどんどん変わっていく。
胸の中で、咲がふふっと微笑んだ。

「そんなに褒めてくださるのは、まだ早いです。だって、この一本しか、成功していないんですから」
「それでも、この問題に解決の道筋を付けたことが素晴らしい……。私は今、人界から問題を抱えて帰ってきたばかりなのだが、あっという間に解決してしまって、驚いている」

感動の震えのまま、胸に抱かれた咲の頭に頬ずりする。あらあらまあまあ、と小夜がなにか言いたげだったが、知らぬ振りをした。そのまま腕の中の咲をもう一度見つめる。