血、の言葉にスズがぎょっと目をむく。小夜も似たような反応をした。
「ど……っ、どういうことですか……っ!? 血を……、与える……って……!!」
「どういうことです、咲さま。ハチの言うことは、本当ですか」
名付け親である咲の言葉に混乱するスズに対し、小夜はスズの混乱の分、冷静になれたようだった。静かな声に、ええと、と説明を試みる。
「贄だった私が喰われていないせいで、飢えた方がいらっしゃいます。その方たちをなんとかして、救いたいのです」
「それにしたって、御身を傷つけることはなくないですか!?」
スズはまだ混乱中だ。小夜は視線で続きを促す。
「贄だった私は、本来の役目通り喰われるのが筋です。ですが、千牙さんと約束をしていますので、それを果たさないわけにはいきません。だったら、私の責任で、私の命の分を補う必要があります」
「それで、血……、と……」
確かに成体を補うに能(あた)うものですが……、と、小夜が眉間に皺を寄せて呻く。それに対しては、誤解を解かねばならない。
「それも考えましたが、妖界全ての方にと思うと、少しそれでは心許なくて……」
咲の言葉に青い顔をしていたハチが安堵の表情に変わる。目の前で咲の流血を見てしまった彼には、少し申し訳ないことをしてしまったなと反省する。
「しかし、あやかしは草程度の生気では生き延びられません。力を維持するために、相応の生気を得ないと、無理です」
きっぱりと、小夜が言う。それは理解している。しかし、試したいことがあるのだ。
「上手くいくかなど、私にだって分かりません。しかし、皆さんが自分のせいで飢えていることを知ってしまった以上、そのままに出来ないです」
じっと小夜を見ていると、しばらく考えたあとに、彼女が大きなため息を零した。
「命を削らないと、誓っていただけますか。私は長から、留守中の里のことを任されております。帰郷された咲さまのことも、同義です」
彼女は彼女で、責任を果たそうとしている。咲はこっくりと頷いた。
「けして無理はしません。だから、やらせてください」
そうして咲は、屋敷の裏手に二列の畝を作ることを許された。



