「咲さま、今なんと?」
おにかみの里で出迎えてくれた小夜が、目を丸くする。隣でスズもぽかんとしている。咲は明朗に応じた。
「私に畑を、持たせてほしいのです」
繰り返した咲に、二人は彼女が本当にそう言ったのだと理解した。
「さ……、咲さま……。お出しする食事はお口に合いませんでしたか……? それとも人界帝都でなにか良いものを召し上がったのでしょうか……」
食事の世話もしてくれていたスズが、驚愕の表情で震えながら口を開いた。彼女にしてみれば、千牙から咲の身の回りの世話を任されており、また彼女にとって咲は名付け親。顕現に至るには咲の力があってこそだったので、二重に打ちのめされているようだった。
「違うわ、スズ。私は、千牙さんに求められた約束を果たすために、どうしても作物を育てたいの。決して出して貰っている食事に不満があるのではないわ」
「ですが、咲さまは長の御寮さまですよ? そんなお方に畑仕事などさせられると思いますか!?」
微笑んだ咲にも、スズは青い顔をして叫んだ。確かに千牙の自分に対する態度は、真綿でくるむように大事にするそれで、長の命で動いているスズにとっても、咲の申し出は理解できないもののようだった。
どうしても畑を耕すというなら、私がやります! とまで言い出したスズを横に、小夜は冷静な表情で咲に問うた。
「なにゆえ、そのようなお考えになられたのです。長のなさることが、気に入りませんか」
「そうではないわ。そうではないの」
小夜は邑での一件以来、咲に尽くすと言ってくれたが、しかし彼女の主はあくまでも千牙。おにかみの里に住むものにとって、彼の言うこと以上に大切なことはないのだ。
咲は頼み方を間違えただろうか、と思案する。
帝都に行く際に里の様子を見た感じからして、使っていない土地はありそうだった。屋敷の裏手も庭のように手入れされているわけではない場所があり、つまり空いている場所は沢山あるのだから、少しくらい土いじりに使われて貰うことは出来るだろう、という算段の許での発言だった。
しかし、よくよく考えてみれば、ハチが邑での畑仕事を、食べるために草を植えるのか、という認識だったのだから、あやかしである小夜やスズにも、土を耕す重要性を説けるはずがなかった。
(そうよね……。植物では生気が足りないものね……)
考え込んだ咲に、隣のハチが青い顔をしてぽつりと呟いた。
「まさか……、草を栽培して、血を与えようなどとお考えでは、ありませんよね……?」



