ビュッと振り下ろされたのは、洋燈の明かりに反射する刀。瞬間的にハチが半身を翻し、腰に携えていた木刀で応戦する。
ハチの持っていた洋燈が、ガランガラン、と地面に転がり、灯っていた火が消える。それと同時にガン、カキン! と固い木刀と刀の当たった音がした。ハチは刀の一撃をはねのけて、敏捷な動作で咲を庇い、後ろに跳躍した。茂みの中から出て来た三人の人影との間に、やや間が空く。
「何やつ! このお方をおにかみの里長、千牙さまの御寮さまと知っての狼藉か!」
木刀を構えて叫ぶハチに、吐き捨てるような言葉が飛びかかった。
「うるせえ! そいつが約束の贄なんだろう!?」
「そいつを喰わずにいたら俺らが飢えるって知ってて、そんなこと言うのかよ!」
「朧風情があやかしの成体に対して、偉そうな口聞くんじゃねえ!」
彼らと咲たちの間に、緩く風が吹く。霧が流れて、人影が里を出るときに咲を見ていた鬼たちだと分かった。ぎゅっと唇を噛む。
痩せこけた頬。ぼろぼろの着物。きっと、十年目の贄を待ち望んでいたに違いない。彼らみたいな人が、妖界にはいっぱい居るのだろう。
(わたしが、贄にならなかったばっかりに……)
生きるということは、殺生を伴うことだと、先ほど思ったばかりだった。咲にとって蒲公英がそうだったなら、彼らにとって咲がそうなのだ。咲だけが、その運命から逃れても良いものなのだろうか。
躊躇する咲に、さらなる唾棄の言葉が投げかけられる。
「それに、長だってきっとお前が操っているんだろう!? おにかみの長ともあろうお方が、人間なんかを御寮に選ぶなんてありえねえからな!」
「うす汚ねぇ口で吐く力が、長の命を握ってるからだろう!」
「長を守るためにも、この人間は喰っちまった方が良いんだよ! 喰わせねえならお前を喰う! 悪食ものになったって、腹が減ってるよりは良いんだからよ!」
最後の言葉は、ハチに向けられた言葉だった。
鬼たちがもう一度刀を振り上げて襲いかかってくる。ハチは咲と千牙の間に結ばれた絆を説き、自分を庇ってくれるが、飢えと怒りに支配された彼らには届かない。
洋燈の明かりが消えた中、三人の鬼たち以外の気配が狭間のそこかしこからしてきた。小さく舌なめずりの音がする。他の里のあやかしがいるのかもしれない。鬼火の守りが消えた中、丸腰の咲は、他のあやかしたちの格好の獲物だ。
「あやかしたち! ここにおわすは人妖調停者さまの御寮さまである! 手出しをするな!」
ハチが周囲に叫びながら、一方で鬼たちに木刀で応戦する。四方八方から視線が集まる中、ハチが咲を振り返った。
「咲さま! ここは俺に任せて、人界へ戻ってください! きっと長が気付いてくださいます!」
「駄目よ! この人たちの怒りの元は、私だもの! 私がなんとかしなきゃ!」
でも、どうやって。
彼らの要求通り、この人たちに喰われれば、彼らの怒りは収まるが、千牙との約束が果たせない。それはどうしても避けたい。
彼らの怒りの半分が飢えによるものだと分かっているからこそ、邑での記憶と、贄としての責任故に、どうにかしたいと思ってしまう。
(そうだわ……)
芙蓉の言葉を思い出す。あやかしの命を補うための『たくさんの生気』の意味を理解した咲は、応戦しているハチと鬼たちの間に割り込んで、降りかかる刃の前にその身を差し出した。
「咲さま!」
ハチの持っていた洋燈が、ガランガラン、と地面に転がり、灯っていた火が消える。それと同時にガン、カキン! と固い木刀と刀の当たった音がした。ハチは刀の一撃をはねのけて、敏捷な動作で咲を庇い、後ろに跳躍した。茂みの中から出て来た三人の人影との間に、やや間が空く。
「何やつ! このお方をおにかみの里長、千牙さまの御寮さまと知っての狼藉か!」
木刀を構えて叫ぶハチに、吐き捨てるような言葉が飛びかかった。
「うるせえ! そいつが約束の贄なんだろう!?」
「そいつを喰わずにいたら俺らが飢えるって知ってて、そんなこと言うのかよ!」
「朧風情があやかしの成体に対して、偉そうな口聞くんじゃねえ!」
彼らと咲たちの間に、緩く風が吹く。霧が流れて、人影が里を出るときに咲を見ていた鬼たちだと分かった。ぎゅっと唇を噛む。
痩せこけた頬。ぼろぼろの着物。きっと、十年目の贄を待ち望んでいたに違いない。彼らみたいな人が、妖界にはいっぱい居るのだろう。
(わたしが、贄にならなかったばっかりに……)
生きるということは、殺生を伴うことだと、先ほど思ったばかりだった。咲にとって蒲公英がそうだったなら、彼らにとって咲がそうなのだ。咲だけが、その運命から逃れても良いものなのだろうか。
躊躇する咲に、さらなる唾棄の言葉が投げかけられる。
「それに、長だってきっとお前が操っているんだろう!? おにかみの長ともあろうお方が、人間なんかを御寮に選ぶなんてありえねえからな!」
「うす汚ねぇ口で吐く力が、長の命を握ってるからだろう!」
「長を守るためにも、この人間は喰っちまった方が良いんだよ! 喰わせねえならお前を喰う! 悪食ものになったって、腹が減ってるよりは良いんだからよ!」
最後の言葉は、ハチに向けられた言葉だった。
鬼たちがもう一度刀を振り上げて襲いかかってくる。ハチは咲と千牙の間に結ばれた絆を説き、自分を庇ってくれるが、飢えと怒りに支配された彼らには届かない。
洋燈の明かりが消えた中、三人の鬼たち以外の気配が狭間のそこかしこからしてきた。小さく舌なめずりの音がする。他の里のあやかしがいるのかもしれない。鬼火の守りが消えた中、丸腰の咲は、他のあやかしたちの格好の獲物だ。
「あやかしたち! ここにおわすは人妖調停者さまの御寮さまである! 手出しをするな!」
ハチが周囲に叫びながら、一方で鬼たちに木刀で応戦する。四方八方から視線が集まる中、ハチが咲を振り返った。
「咲さま! ここは俺に任せて、人界へ戻ってください! きっと長が気付いてくださいます!」
「駄目よ! この人たちの怒りの元は、私だもの! 私がなんとかしなきゃ!」
でも、どうやって。
彼らの要求通り、この人たちに喰われれば、彼らの怒りは収まるが、千牙との約束が果たせない。それはどうしても避けたい。
彼らの怒りの半分が飢えによるものだと分かっているからこそ、邑での記憶と、贄としての責任故に、どうにかしたいと思ってしまう。
(そうだわ……)
芙蓉の言葉を思い出す。あやかしの命を補うための『たくさんの生気』の意味を理解した咲は、応戦しているハチと鬼たちの間に割り込んで、降りかかる刃の前にその身を差し出した。
「咲さま!」



