【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる



眞人の執務室に千牙はいた。彼が強固に張った結界の中で、二人は重苦しい空気の中、会話していた。

「そうか……。やはり外つ国との交流は、民に言い訳の余地を与えてしまっているのだな……」

百年にも満たない短い間に、古い風土の国内に様々な新しい情報が流入し、人々はいかに苦難の上に自分たちの生活が成り立っているのかを知った。

そもそも人妖で交わした協定では、十年に一度の贄をあやかし側に出さなければならなかった。他国と交流がなかった頃はそれが当たり前だったのに、政府が開国を強行したばっかりに、そんなしきたりで縛られていたのは自分たちだけだったのだと気付いてしまったのだ。

これには妖界側にも弁解の余地がある。つまり海の向こうの妖怪との取り決めで、現地は現地の命を屠って生きていくという、いわば不可侵の条約を結んでいたのだ。
外つ国の政府は妖怪による人身被害を警察に任せ、妖怪を『討伐する相手』として設定しているのが一般的だ。人妖が不可侵の協定を結び、緩やかに共存してきたこの国のなりたちとは、少し事情が違う。

故に、「こちらはこちらで喰われている。海を隔てたお前の国に出す贄などない」というのが、彼らの主張だ。この辺り、神あやかしが生活に密接しているこの国との文化の差でもある。

というわけで、自分たちにも破妖の力があるのだから、命を脅かす相手に屈服しないでも、現状を維持できるはずだ、というのが今の論調であるらしい。彼らはそもそもの神から与えられた破妖の力を、己が力と勘違いし始めているわけだが……。

「しかも最近、辺境の地で神隠しが頻発しているらしい。そもそも贄の任を押しつけ合っていたところへ、先般、咲殿があやかし側へ邑から出されただろう? 結果として咲殿は喰われていないからそちらの飢えの解決策にはなっていない。だから次の贄は決めなければならないが、民は次など十年先だと言ったり、贄を出したのに何故まだ神隠しが起こるのだと、不満と不安でいっぱいなのだよ」

眞人は眞人で、人界の長であるから、協定を守る立場にはあるが、一方で民の命を捧げなければこの平穏が保てないことを辛く思っている。

しかし、現状の天秤は協定を守ろうとする力よりも、それに逆らおうとする思いの方に傾いている。天秤が揺らぐことで人々の不満や不安が高まり、それは朧の発生とその悪鬼化に関係する。眞人が舵を取るにも、難しい局面に来ている。

それに、民の不安は取り除かなければならないが、それとは別で神隠しが頻発しているというのが気になる。
ふむ……、と千牙が顎に手を当てると、眞人も思案の様子を見せた。

「では、私は辺境の地区を当たってみよう。神隠しだと言われているということは、妖界に原因があるやもしれぬ。人界についてはおぬしに任せたいが、いかがか?」
「承知した。なにか情報を得れば、屋敷に文を届けましょう」

眞人の言葉に、助かる、と千牙は頷いた。