人だって、命をもらって生きている。あやかしだけが十年に一度の贄の命だけで永らえるのは、大変だろう。おにかみの里でぼろの着物を着ていた人たちを思い出す。
(あの人たち、ちゃんと食べられているのかしら……)
咲がおにかみの里でもらっている食事が、彼らの分だったらどうしよう。彼らが咲のことを、里のものでもないのに、里の物を横取りして裕福に食べている人間、と思っていても仕方ない。
(自分の分だけでも、自分で何とかすべきじゃないのかしら……)
邑では境界近くの木の実や草の地下茎を食べていた。屋敷で出されるような豪華な食事でなくてもいいはずだ。というか、自分は居候なのだから、そもそもそうすべきだった。
(里に帰ったら、木の実を採ってもいいか聞いてみよう)
そこまで決めると、千牙にふと名を呼ばれた。いつも思うが、彼が咲を呼ぶ音は、咲の胸を溶かしていく。
「あ……っ、なんでしたか?」
「いや……。咲が余計な心配をしている気配がした故」
「よ……、余計な心配なんかでは……」
焦る咲に、彼はくつくつと喉を震わせて笑った。
「咲は私とともに生きてくれると承諾してくれた。あの里では、それがすべてだよ」
考えていたことを見透かしたように、千牙は里の長の顔で、そう言う。しかし、咲としてはそうもいかない。
「でも、里の人たちは、皆さんが鬼という種族だから、あそこにいるのだと思います。そうではない私が、千牙さんが望んでくれたからと言って、皆さんに私のことを納得してもらえたとも思えないのです。鬼でもない私は、里のために何もしてませんから」
千牙が至近距離から見つめてくるのを、左の頬で受け止めながら、膝に置いた手元に視線を向けてぽつぽつと言葉を継いだ。ふふっ、と息を漏らすような音にそっと隣を窺うと、千牙がとろけそうな瞳でこちらを見ていた。
「せ……、千牙さん……?」
「咲のそういうところはとても好ましいが、せっかく里を離れて、ハチも追い出したというのに、おぬしは全く私のことを考えぬな」
「え……っ?」
自分が失敗していたと言われて、咲は驚いて千牙のほうを向いた。彼はやはり喉を震わせてくつくつと笑っている。満足そうな、物足りなさそうな、そんなない交ぜの表情だ。
咲が見つめる中、千牙は体を離した。ゆるく首を横に振って、何かを振り落とすような様子だ。少し心配になって、彼の名を呼ぶ。
「咲の心は、どこにあるのだろうな?」
不意につぶやかれた言葉に、どきりとする。
どこ、とは、どういう意味だろう。
「あの……」
戸惑う咲に、やはり千牙は緩く首を振る。前髪が目にかかってしまい、表情が見えづらい。
「いや、私が少し意地悪だったよ。気にしないでくれ」
微笑む口元はとてもやさしいのに、なぜか彼が、とても寂しそうに見えた。



