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風花との最初の授業を終え、ハチとともに千牙に帝都の屋敷に案内された。宮城の程近くにある大きな屋敷はおにかみの里の彼の屋敷とは違い、見たこともない造りをしていた。
ぽかんと大きな建物を眺めていると、千牙が洋建築は初めてか、と問うた。
「ようけんちく?」
「この国のものが最近好む外つ国の文化だ。この国は人界の中心ではあるが、それゆえに古くからのしきたりがずっと続いていた。それを眞人の先々代くらいか、海の外の国と交流を持つようになってな。生活にゆとりのあるものが、そういう目新しいものに飛びついているのだ」
「うみ、とは何ですか?」
咲の疑問に千牙はまたも、おや、というように目をやや開いてから教えてくれた。
「土の大地ではなく、水がどこまでも続いているところだ。池の大きいものと思えばいい。この国は妖界との窓口であるから、他国と隔絶させるために大きな池の真ん中にぽつんとある島国なのだよ」
自分の住まう土地のことも知らなかった。邑を出たら、もっと知らないことがいっぱいだ。想像しようにも咲の見知った景色の中にそれらを想起させる経験が何もなく、咲は空想するのを諦めた。
千牙に案内されて屋敷に入ると、一通りの部屋の説明をされた。居室、台所、食堂、風呂など、多くの部屋があるが、やはりおにかみの里の屋敷の部屋とは造りがまるで違う。邑で知っていた部屋は、言わずもがなだ。
「この屋敷には私の結界が施してある。私の許可したものしか立ち入れない故、人界でもここにいれば安全だ。宮城では眞人が守ってくれるだろう」
「はい」
千牙は咲に一通り屋敷を説明し終えると、居間のソファに腰かけて、ハチに食事を作るよう命じた。ハチが気持ちの良い返事をして部屋を出ていくのを、咲も追おうとする。
「あ、わたしも一緒に……」
おにかみの里では屋敷の人に世話になりっぱなしだった。今はここに三人しかいないのだから、人型を取ってさほど立っていないハチより、ずっと邑で家族のために煮炊きをしていた咲のほうが適任だ。しかし、千牙が咲の肩を抱き込んだ。引き込まれて、ぽすんと千牙の隣に腰から落ちる。
「せ、……千牙さん……?」
「咲。少し、こうしていてくれぬか」
「え……」
少し、今までとは違う声音に戸惑う。彼の様子をじっと窺うも、千牙は目を閉じたまま咲の肩を抱き込んだままだ。肩と肩が密着し、自分の熱い体温に、あやかしだからだろうか、すこしひんやりした体温がしみてくる。
互いに着物の上からだが、布越しにも千牙の腕の逞しさがわかる。この腕は大太刀を持ち、人妖の取り決めに反したものを裁く腕。その大切な腕に触れさせてもらえることに、言いようもなく彼からの信頼を感じる。
(でも、こんなに逞しくなっているのは、千牙さんが鍛錬しているからだろうけど、それくらい争いを裁かなければならなかったからだわ……)



