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里の入り口でハチも合流した。彼は御者台に乗り込み、里の入り口を超えたところで腰に下げていた洋燈に鬼火を灯した。これは千牙がハチに与えた力らしく、今後咲と二人で人界との行き来をする際に、行く道を照らす守りになるのだそうだ。そういえば、咲が里を出て次なる集落に向かっていたときも、小夜がこの火を洋燈に掲げ持ってくれていた。
「狭間はいろいろなあやかしの気配が混じる。それ故、他の里の入り口に通じやすい。それを避けるために、狭間ではそれぞれの里のあやかしはそれぞれの方法で自分たちの里を鬼火のような力で示して、他の里のものとの余計な諍いを避けているのだ。守りという意味は、そういうことだ」
なるほど、と咲は頷く。だから人の里に下りようとしたときに、咲が間違いなく目的の里にたどり着けるように、小夜は鬼火を掲げてくれたのだ。
狭間の道を、洋燈の鬼火が照らす。ほの青いその明かりは、狭間のうす暗さをぼんやりと明るくした。ハチがやや高揚したように言う。
「ただの朧だったころには、こんな力をもつなど、考えもしませんでしたよ。咲さまにお会いしてから、俺の生は劇的に変わりました。ありがたいことです」
そんな風にありがたがってくれるが、朧たちは昔から友達のいなかった自分にとって大事な友達であったので、そんな風に言われると、距離を置かれてしまったように感じる。
「でも、私はずっと朧のみんなに支えられていたわ。私が邑で生きるのを諦めなかったのは、朧のみんながいたからなのよ。私のほうこそ、朧のみんなにお礼を言わなくてはならないわ」
そんな話をしながらたどり着いた先は、とても大きな鳥居の前だった。
「これが、人界への入り口だ。人間はあやかしに比べて弱いため、妖界のあやかしがどこからでも出入り出来るようにはなっていない。神々は人妖の力関係も、きちんと考えておられる」
馬車が、鳥居をくぐる。すると景色は一変した。空は晴れ、堂々とした建物の前に来たのだ。
外壁が幾重にもめぐらされた荘厳な造りの建物は、帝の宮城(きゅうじょう)だということだった。古くはあやかしとの攻防のために築かれた守りの城壁であるらしい。
宮城では、ハチが廊下の外で控える中、通された広間では帝が迎えてくれた。柔和な顔つきの青年は、千牙と共に現れた咲を見て、ほう、と目を細めた。千牙が隣に坐した咲の肩をぐっと引き寄せる。帝はくつくつと笑いをこぼしながら、言葉を発した。
「人妖調停者殿。ご足労痛み入る。ところで、美しい娘をお連れですな。我が宮にいただきたいくらいだ。此度はどのようなご要件であろうか。お連れのその美しい娘と、関係が?」
声も、尖ったところはない。世辞にしては誇張が過ぎるが、それにしても肩に置かれた千牙の手の力が強くなるのを、不思議に思う。
「新たに巫女たる才を持つものを見つけた。ついては彼女に巫女修行を施したい」
「ほう。施したい、と申されるということは、この娘は人界のものではない……、と?」
帝の目が、ぱちりと瞬いて、また細くなる。千牙が、より一層咲の肩を引き寄せ、荒っぽい言葉を放った。
「咲に手を出したら、切り刻むぞ、てめえ」
里の入り口でハチも合流した。彼は御者台に乗り込み、里の入り口を超えたところで腰に下げていた洋燈に鬼火を灯した。これは千牙がハチに与えた力らしく、今後咲と二人で人界との行き来をする際に、行く道を照らす守りになるのだそうだ。そういえば、咲が里を出て次なる集落に向かっていたときも、小夜がこの火を洋燈に掲げ持ってくれていた。
「狭間はいろいろなあやかしの気配が混じる。それ故、他の里の入り口に通じやすい。それを避けるために、狭間ではそれぞれの里のあやかしはそれぞれの方法で自分たちの里を鬼火のような力で示して、他の里のものとの余計な諍いを避けているのだ。守りという意味は、そういうことだ」
なるほど、と咲は頷く。だから人の里に下りようとしたときに、咲が間違いなく目的の里にたどり着けるように、小夜は鬼火を掲げてくれたのだ。
狭間の道を、洋燈の鬼火が照らす。ほの青いその明かりは、狭間のうす暗さをぼんやりと明るくした。ハチがやや高揚したように言う。
「ただの朧だったころには、こんな力をもつなど、考えもしませんでしたよ。咲さまにお会いしてから、俺の生は劇的に変わりました。ありがたいことです」
そんな風にありがたがってくれるが、朧たちは昔から友達のいなかった自分にとって大事な友達であったので、そんな風に言われると、距離を置かれてしまったように感じる。
「でも、私はずっと朧のみんなに支えられていたわ。私が邑で生きるのを諦めなかったのは、朧のみんながいたからなのよ。私のほうこそ、朧のみんなにお礼を言わなくてはならないわ」
そんな話をしながらたどり着いた先は、とても大きな鳥居の前だった。
「これが、人界への入り口だ。人間はあやかしに比べて弱いため、妖界のあやかしがどこからでも出入り出来るようにはなっていない。神々は人妖の力関係も、きちんと考えておられる」
馬車が、鳥居をくぐる。すると景色は一変した。空は晴れ、堂々とした建物の前に来たのだ。
外壁が幾重にもめぐらされた荘厳な造りの建物は、帝の宮城(きゅうじょう)だということだった。古くはあやかしとの攻防のために築かれた守りの城壁であるらしい。
宮城では、ハチが廊下の外で控える中、通された広間では帝が迎えてくれた。柔和な顔つきの青年は、千牙と共に現れた咲を見て、ほう、と目を細めた。千牙が隣に坐した咲の肩をぐっと引き寄せる。帝はくつくつと笑いをこぼしながら、言葉を発した。
「人妖調停者殿。ご足労痛み入る。ところで、美しい娘をお連れですな。我が宮にいただきたいくらいだ。此度はどのようなご要件であろうか。お連れのその美しい娘と、関係が?」
声も、尖ったところはない。世辞にしては誇張が過ぎるが、それにしても肩に置かれた千牙の手の力が強くなるのを、不思議に思う。
「新たに巫女たる才を持つものを見つけた。ついては彼女に巫女修行を施したい」
「ほう。施したい、と申されるということは、この娘は人界のものではない……、と?」
帝の目が、ぱちりと瞬いて、また細くなる。千牙が、より一層咲の肩を引き寄せ、荒っぽい言葉を放った。
「咲に手を出したら、切り刻むぞ、てめえ」



