そんな風に、咲はおにかみの里であらたな時間を過ごし始めた。邑にいた頃とは比べものにならないくらいに、春の温水のような、安らいだ日々。スズやハチは毎日咲と楽しくしゃべってくれるし、小夜も咲の生活で不都合なところがないか、いつも気にしてくれる。咲はあの家では姉で、妹に芙蓉がいたが、彼女と姉妹らしく過ごしたことがなく、彼らといると、小夜が姉のようだと思うし、スズやハチは妹、弟のように感じる。
特にスズはかわいい妹分で、咲はいろいろ世話を焼きたくなってしまう。今日は咲が拾ってきたきれいな石で、幼い頃に遊んだおはじきに興じていた。
白や黄土、薄緑や空色の筋の入ったいろいろな石を混ぜて、指先で弾いて遊ぶ。スズは石をぱちんぱちんと弾くのが楽しいらしく、目を輝かせていた。
「咲さまは綺麗な石を見つけるのも、お上手ですね! 石ころなんてどこにもあると思っていましたが、咲さまが選んでくると、宝物のように輝いて見えます!」
「大げさだわ、スズ。スズだって自分で一生懸命気に入った石を探したら、それがスズの宝物になるじゃない。今度スズの石を探しにいきましょう。スズの石と私の石をまぜて、またおはじきをしたいわ」
「えっえっ!? 一緒に探しに行ってくださるのですか!? じゃあ、今から行きたいです!」
興奮したスズが立ち上がり、咲の手を引こうとする。そこへ千牙がやってきた。やわらかく微笑み、咲を見つめる赤い瞳は、今日も変わらず美しい。
「咲、なにをしている?」
「あっ、千牙さん。今スズと一緒におはじきをしていました。スズが石を探しに行きたいというので、今から行こうかなと思ったところです」
千牙が姿を見せたことで、スズは握っていた咲の手を離した。
「そうか。少し咲と散歩できればと思ったのだが」
「ええっと、でも、スズと石を探しに行きたいので……」
咲が千牙の誘いを断るとスズが慌てて、咲の背中を千牙の方へ押した。
「咲さま! せっかく長がお誘いになっておられるのです。是非、長とお出かけになってください!」
「でも、スズとのお話の方が、先だったわ」
「いえいえ! 長と咲さまの喜びが、わたしの喜びです。是非、長と!」
「でも、順番よ。スズの石を探しに行ったあとで、千牙さんと出かけたっておかしくないのだし……」
その言葉に、スズがぶんぶんと首を横に振る。
「それを言ったら、私との約束は、長とのお散歩の後で構いません!」
なんとも決着の付かない騒ぎの中で、千牙は苦笑をしながら呟いた。
「共に生きてくれるとはいえ、咲が溺れてくれるのは、まだまだ先か……」
彼の呟きを聞き取れなかった咲は、千牙に問い返す。
「ええと、なんでしたか?」
「いや、なんでもない。スズと楽しく過ごしているところを、悪かったな。散歩はまたのちほど誘おう。咲たちは出かけてくるがよい」
千牙はそう言って、部屋から出て行った。きょとんとしてその後ろ姿を見送った咲に、もう、咲さまぁ~! と口を大きく開けたのはスズだった。



