【長編版】無能の少女は鬼神に愛され娶られる



「咲さま。私はこれから誠心誠意、咲さまに仕えさせていただます」

邑での出来事から戻った後、咲は小夜からそう頭を下げられた。小夜が邑に咲を連れていったのは、敬愛する千牙が人間風情を気に掛けるのが気に入らなかったからであり、最初に名を名乗ったのもそれが理由だとのことだった。

「でも、小夜さんに連れて行っていただかなかったら、私は家族のしていたことを知ることが出来ませんでした」

それに、あのとき鬼に喰われると思ったからこそ、桜玉に願いを託すことが出来た。全て必要なことだったし、小夜が憂うことではないと思うが、小夜も千牙にこってりと絞られたとのことで、今の彼女の気持ちも仕方ないのかなと思う。

そんなわけで、咲は居室を客間から正式に与えられ、身の回りのものが部屋に増えていった。全ては千牙からの贈り物で、その大げささに驚いてしまうが、スズやハチに、長も嬉しいのでしょう、と言われると、遠慮も出来なかった。

「長、かわいいんですよ。咲さまのために、狭間の商人に頼んであれこれと人界のものを買うのが嬉しいらしくて。咲さまのための食物も取り寄せていますし」

そういうのはスズだ。彼女は狭間に買い物に行くときに彼に伴われているようで、咲が里に来たときの、当面の着衣として着物選びを任されたときと比べて、品を選んでいる時の千牙の熱心さをいろいろ教えてくれる。

「それに、長が穏やかな様子でいらっしゃるので、屋敷が落ち着いてとてもいい雰囲気です。里のものにもそれは伝わるのでしょうね。調停者として日々忙しく働いていた頃と比べて、里のものの笑顔も増えました」

小夜は千牙を支えるものとしての感想を、咲に伝えてくる。
彼らが言うことの全ての理由が自分だとは思わない。しかし、女性の着物を選んで嬉しそうだというのはともかく、千牙の言葉からすれば、偶然とはいえ彼に新たな名を与えたことが、里での彼の様子に繋がっているのなら、少しは彼の安らぎに貢献できているのだろうかと、そういうところは安堵できた。