何でも屋甘直の日常一逆らってはいけない二人組一

「彼のお姉さんだけど、依頼主の言っていた通り既に死んでた」
 
 朝のようにお茶を淹れた甘は直のデスクにそれを起きながらことの顛末を端的に語る。
 客も子供ももういないこの部屋の机に茶菓子は置かれることはない。
 
「だろうね、型番196【形代】本来は大切な人が亡くなった時に一時的に心を慰める為にその人物の身体を動かしてくれるもの、伝えられなかったことを伝えたり、最後の挨拶をしたり、長期的に用いるものではない、この子の依存性は他のパーツよりも高いからね」
 
 甘から受け取った【形代】は濁りきっており部屋の蛍光灯に翳してみても鈍く光を反射することしかしない。
 
「放っておけばアイツもいずれ一緒に取り込まれてた」
「……まぁ、そうだろうね、この汚染度合いを見ればよく分かるよ」
「……」
 
 直は何か言いたげな甘を軽く受け流す。
 
「今回の依頼は三つ、ひとつは火付けの犯人の確保及びに殺害、ひとつは金の工面、そしてもうひとつは……彼の友人からの依頼、サクラくんの【形代】の依存からの脱却だ、そして私は二つのパーツの回収と1年分の寿命、中々美味しい仕事だったね」
 
 そう、今回の依頼は多重に重なったものだった。
 サクの姉は流行り病で既にこの世にはいなかった、それなのにサクはいつからか姉は生きていると語り出し、一緒に看取った友人に動く姉を見せた。
 
 既に汚染の進んだパーツの力で動く人間が普通な筈はなく、思い付く限りの方法で引きはなそうとしてもうまく行かず、サクの友人は何でも屋甘直に依頼することを選んだのだ。
 
 自身が恨まれることになっても、これから先共にあることが出来なくなったとしても。
 寿命を払ってでも、サクに生きてほしかった。
 
 直に噛み砕かれたパーツはどれも形を保つことが出来なくなりぐずぐずと塵のように崩れ去っていく。
 風に舞った塵はまた、この芥田場を巡るのだろう。
 それは【焔凪】も変わらずに。
 
「……直さん」
「あー、大丈夫だって言ってるのにいつも君はそんな顔をするよね」
 
 笑う直とは裏腹に悲しそうな顔をする甘の頬を直が優しく撫でる。
 朝、ペンキを拭った時と同じように。
 
「だって、また直さんが必要のない恨みを買った、直さんのしようとしていることを周りは理解しようとしないから」
「君だってしようとしていることを頭では理解していても心では理解はしてないだろう?」
「……」
 
 直の返答に甘は何も言えず、されるがままに頬を弄ばれる。
 甘は直に拾われた。
 だから直の言うことは絶対だ、それでも自分から人に恨まれる未来を選んだ直の気持ちを頭では理解できても心では理解できていない。
 
 甘の世界は直さえいればそれで全てが収束する。
 はっきり言ってしまえば何でも屋甘直の外の世界に興味などないからだ。
 
「ちょっと意地悪過ぎたかな、大丈夫だよ、私は自分のやるべき使命をしっかりと自分で理解しているからね、だから死ねないし、パーツが必要なんだ、【終焉】頼んだよ、【形代】の最後を」
 
 直は【終焉】に語りかけると【形代】を自身の口に含む。
 その悲しげな所作にいつだって甘は何も言うことはできない。
 いつもそう、直はパーツを砕くときいつだって泣きそうな顔をする。
 
 国にとっては害悪の塊かもしれないそれ達は直にとっては今は亡き師と共に生み出した大切な子ども達。
 破壊するのが辛いからなのか、子ども達が汚されたことが悲しいからなのか、出会ってからそれなりの時間を共にした甘にさえ、いまだにそれは分からない。
 
「……相変わらず、嫌な感覚だね、これには慣れる気がしない」
 
 吹きすさぶ風に絡めとられて外に流れていく塵を直は愛しいものを見るような、慈愛に満ちた瞳で眺め、そして見送る。
 
「でもそれで救われた人がいる」
「そうだね、でも私は正義の味方じゃない、人助けはついでみたいなものだし恨まれることのほうが多い、それでもちゃんとやり遂げるさ、パーツがこの世界から無くなるまでいつまでも」
 
 珍しく食い気味に発言した甘に向けた笑顔はきっと、外行きのそれとは違うもので
 
「俺も、最後まで付き合う、命が尽きるその時まで」
 
 直の右手を優しく掴んだ甘の表情もまた、他の人には見せない緩んだ笑顔だった。
 
「……人間の寿命は短いけれど、少なくとも後数十年は暇を持て余さなくて良さそうだ」
 
 明日も多分、彼女は変わらずにまたパーツを探す。
 自身の、目的の為に。