──
「うわぁ、すごい山だらけ!」
新幹線のドアが開くと、一面山に囲まれた景色と同時にむわっと夏の空気が流れてきた。
「まだ着いてないぞ」
なんて言いながら俺の旅行バッグを肩にかけて歩く先輩の首元は、すでにうっすら汗が光っている。
そこからさらに一車両だけの小さな電車に二十分くらい揺られ、ようやく最寄り駅に到着した時には空はうっすらオレンジになっていた。
「少し歩くけど、平気か?」
「歩きたいです」
「そうか」って言って慣れたように細い田舎道をずんずん歩き出す大きな背中。周りには田んぼや畑しかないのに……なんか先輩すごい似合ってる。その後ろ姿を無意識にスマホのカメラに収めた。
それにしても、すっごい。
どこもかしこも緑でいっぱいで、あちこちから蝉の声が聞こえてくる。目の前の山のふもとからは、涼しげな水の音がして、小さな川のような景色が見えた。
「ねぇ先輩!あれって川?」
「ああ、すぐそこの山から流れてきてる」
「入れるんですか?」
「小さい頃は、よく入ってた」
「ビーチサンダル、持ってくればよかったな……」
初めてみる景色ばかりで、暑さを忘れてはしゃいでいるうちに、いつの間にか大きな瓦屋根のお家の前に着いた。
「ここ、ばあちゃん家」
「うわ、す、すっごい」
庭に小川が流れているお家があるってことはテレビで見て知っていたけど、この目で見たのは初めてだった。人が入れるほどのスペースはないけれど、透き通った水の中には、大きなスイカやトマトやきゅうりが並べられていた。
その横に小さなひまわりが数本咲いていて、奥の縁側では、小さな風鈴が揺れている。
先輩がガラッと玄関を開けると、微かに蚊取り線香の香りが漂ってきた。「ばあちゃん、ただいま」とドスの効いた声が響くと、奥からパタパタと足音が聞こえて、小さな影が近づいてくる。
「おかえり、思ったより早かったなぁ」
先輩のおばあちゃんだから大柄な人を想像していたけど、中から出てきたのは優しい笑顔の小柄なおばあちゃんだった。笑った時の口元が少し、先輩に似てる。
「あ、江花 小鳥です。お世話になります!あの、これ……」
手土産の和菓子を渡して、深々と頭を下げる俺を見て柔らかい声で笑った。
「まあ、礼儀正しい子だなぁ。疲れたでしょう?上がんなさい。ほら、小春も」
「おじゃまします!」
「行くぞ」って言って奥の部屋に向かう先輩の後ろについて玄関を上がった。
──
「くぅー!冷たくて美味しいですっ」
縁側に繋がる居間で冷えた麦茶を一気に飲み干した。
そんな俺を見て「”くぅ”なんて言うやつはじめて見た」と笑い出す先輩。
初めて会った時は無愛想なイメージがあったけど、先輩は意外と表情豊かだ。
「いつでも好きなときに飲みなさい」って大きな冷蔵庫を指さすおばあちゃんはにっこり微笑んで続けた。
「小春がここにお友達を連れてくるなんて、よっぽど仲が良いんだこと」
「え?」
いや、待て。先輩は柔道部のキャプテンで、俺はゴリラ研究部の部長。たったそれだけでここまで連れてきてもらったわけで。……友達なのか?
「こいつは、部長だ」
は?ぶ、部長!?
いや、間違ってはいないんだけど、先輩一体なにを言い出すつもりなんだ。
「あら、小鳥くんも柔道するのね」
「あ、いや……俺は柔道は…」
「こいつが部長でゴリラの研究してる」
待て待て待て。
確かに部長なんだけど。
いきなりゴリラの研究なんて言ったら驚かせちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたけど、おばあちゃんはやっぱり、先輩のおばあちゃんだった。
「あら素敵。果実園のゴリラ、見に連れてってあげなさい」
「ああ、明日行く」
先輩が言ってたゴリラがいる場所のことだよね?でも、果実園?……果物!?
「か、果実園にゴリラ、ですか?」
「動物園みたいなもんだ」
なんですかその幸せな空間は!!
早く行きたくて仕方ない気持ちを隠せないままはしゃぐ俺を見て、微かに似ている口元を緩ませる先輩とおばあちゃん。
いつの間にか緊張も解けてすっかり馴染んでいた。
そんな感じで和気あいあいと過ごしていたらあっという間に外は真っ暗で、テーブルには美味しそうな夕飯が並んでいた。
夕飯はまた唐揚げ。おばあちゃんが作った大量の唐揚げを一瞬で平らげる先輩にはやっぱり驚いた。お昼のお弁当は三分だったし……やっぱり先輩は、すごい。
食後に食べる予定で庭の小川で冷やしていてくれたスイカは、俺が「スイカ割りしたい!」なんて言い出したもんだから、翌日に持ち越すことになった。
「明るい時間ならできるわね。明日しましょう」
「俺、得意だぞ」
なんて笑いながら俺のわがままに付き合ってくれる先輩とおばあちゃんの優しさで明日の楽しみがまたひとつ増えた。
「うわぁ、すごい山だらけ!」
新幹線のドアが開くと、一面山に囲まれた景色と同時にむわっと夏の空気が流れてきた。
「まだ着いてないぞ」
なんて言いながら俺の旅行バッグを肩にかけて歩く先輩の首元は、すでにうっすら汗が光っている。
そこからさらに一車両だけの小さな電車に二十分くらい揺られ、ようやく最寄り駅に到着した時には空はうっすらオレンジになっていた。
「少し歩くけど、平気か?」
「歩きたいです」
「そうか」って言って慣れたように細い田舎道をずんずん歩き出す大きな背中。周りには田んぼや畑しかないのに……なんか先輩すごい似合ってる。その後ろ姿を無意識にスマホのカメラに収めた。
それにしても、すっごい。
どこもかしこも緑でいっぱいで、あちこちから蝉の声が聞こえてくる。目の前の山のふもとからは、涼しげな水の音がして、小さな川のような景色が見えた。
「ねぇ先輩!あれって川?」
「ああ、すぐそこの山から流れてきてる」
「入れるんですか?」
「小さい頃は、よく入ってた」
「ビーチサンダル、持ってくればよかったな……」
初めてみる景色ばかりで、暑さを忘れてはしゃいでいるうちに、いつの間にか大きな瓦屋根のお家の前に着いた。
「ここ、ばあちゃん家」
「うわ、す、すっごい」
庭に小川が流れているお家があるってことはテレビで見て知っていたけど、この目で見たのは初めてだった。人が入れるほどのスペースはないけれど、透き通った水の中には、大きなスイカやトマトやきゅうりが並べられていた。
その横に小さなひまわりが数本咲いていて、奥の縁側では、小さな風鈴が揺れている。
先輩がガラッと玄関を開けると、微かに蚊取り線香の香りが漂ってきた。「ばあちゃん、ただいま」とドスの効いた声が響くと、奥からパタパタと足音が聞こえて、小さな影が近づいてくる。
「おかえり、思ったより早かったなぁ」
先輩のおばあちゃんだから大柄な人を想像していたけど、中から出てきたのは優しい笑顔の小柄なおばあちゃんだった。笑った時の口元が少し、先輩に似てる。
「あ、江花 小鳥です。お世話になります!あの、これ……」
手土産の和菓子を渡して、深々と頭を下げる俺を見て柔らかい声で笑った。
「まあ、礼儀正しい子だなぁ。疲れたでしょう?上がんなさい。ほら、小春も」
「おじゃまします!」
「行くぞ」って言って奥の部屋に向かう先輩の後ろについて玄関を上がった。
──
「くぅー!冷たくて美味しいですっ」
縁側に繋がる居間で冷えた麦茶を一気に飲み干した。
そんな俺を見て「”くぅ”なんて言うやつはじめて見た」と笑い出す先輩。
初めて会った時は無愛想なイメージがあったけど、先輩は意外と表情豊かだ。
「いつでも好きなときに飲みなさい」って大きな冷蔵庫を指さすおばあちゃんはにっこり微笑んで続けた。
「小春がここにお友達を連れてくるなんて、よっぽど仲が良いんだこと」
「え?」
いや、待て。先輩は柔道部のキャプテンで、俺はゴリラ研究部の部長。たったそれだけでここまで連れてきてもらったわけで。……友達なのか?
「こいつは、部長だ」
は?ぶ、部長!?
いや、間違ってはいないんだけど、先輩一体なにを言い出すつもりなんだ。
「あら、小鳥くんも柔道するのね」
「あ、いや……俺は柔道は…」
「こいつが部長でゴリラの研究してる」
待て待て待て。
確かに部長なんだけど。
いきなりゴリラの研究なんて言ったら驚かせちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたけど、おばあちゃんはやっぱり、先輩のおばあちゃんだった。
「あら素敵。果実園のゴリラ、見に連れてってあげなさい」
「ああ、明日行く」
先輩が言ってたゴリラがいる場所のことだよね?でも、果実園?……果物!?
「か、果実園にゴリラ、ですか?」
「動物園みたいなもんだ」
なんですかその幸せな空間は!!
早く行きたくて仕方ない気持ちを隠せないままはしゃぐ俺を見て、微かに似ている口元を緩ませる先輩とおばあちゃん。
いつの間にか緊張も解けてすっかり馴染んでいた。
そんな感じで和気あいあいと過ごしていたらあっという間に外は真っ暗で、テーブルには美味しそうな夕飯が並んでいた。
夕飯はまた唐揚げ。おばあちゃんが作った大量の唐揚げを一瞬で平らげる先輩にはやっぱり驚いた。お昼のお弁当は三分だったし……やっぱり先輩は、すごい。
食後に食べる予定で庭の小川で冷やしていてくれたスイカは、俺が「スイカ割りしたい!」なんて言い出したもんだから、翌日に持ち越すことになった。
「明るい時間ならできるわね。明日しましょう」
「俺、得意だぞ」
なんて笑いながら俺のわがままに付き合ってくれる先輩とおばあちゃんの優しさで明日の楽しみがまたひとつ増えた。



