先輩と過ごした四泊五日

「忘れ物、大丈夫だよな」

大きな旅行バッグを何度も開けては閉める。着替え。充電器。双眼鏡に、持ち運び用のゴリラ図鑑。おばあさんに渡しなさいと母が用意した和菓子の手土産。

「よし!」

先輩の田舎。
ゴリラの観察。
そして、二人きりの旅行。

”土産話、聞かせろよな。ゴリラ以外の”

”あと、キャプテンの大好物は唐揚げな。バナナじゃねーぞ”

誠也の言葉を思い出しながら、テーブルの上に置いた弁当箱を見る。母に教わりながら頑張って作った。誠也の言葉通り、唐揚げたくさん入れたけど……食べてくれるのか。

ふとスマホを見ると、待ち合わせの時間が迫っていた。

「……やばっ、時間。行ってきます!」

忘れ物の最終チェックをして、バタバタと家を飛び出した。

───

先輩との待ち合わせは、新幹線乗り場の改札前。夏休みの駅は想像以上に人で溢れていた。人の波にぶつからないように避けながら改札へ向かう。そして時々、キョロキョロ辺りを見回す。

先輩、もう来てるかな。
初めての待ち合わせが四泊の旅行って、冷静に考えるとやばいな。

……ん?

少し先、改札横の柵の前に、どすんって感じで立っている大きな人影が見える。周りにはたくさん人がいるけど、間違いない。人をかき分けながら小走りで向かった。

「先輩!お待たせしました」

「おお、早いな」

先輩の方が早いじゃん。だってまだ、待ち合わせの三十分も前だよ?

シンプルな白のTシャツにゆるっとしたワイドパンツ……え!?て、手ぶら?

「せ、先輩、荷物は!?」

「ああ、これ」

ポケットからひょいと取り出したのは財布とスマホ。

「そ、それだけですか!?」

「着替えは適当にばあちゃん家、置いてる」

当たり前のように答える先輩は……やっぱりすごい。あとは、なんていうかな、怖いもんなし?
四泊五日の旅行に財布とスマホだけで来るなんてきっと先輩くらいだ。

「江花は重そうだな」

「え?」

「それ、荷物」

ふいに、すっと右肩が軽くなった。
「行くか」って言って改札に向かう大きな背中。その肩には、なんだか小さく見える俺の旅行バッグ。