───
「ほら、サボるな!しっかり取れ」
「しゃあっ!」
「おらぁ!」
誠也に続いて部室に入った途端、熱気と一緒に太い声が聞こえてくる。
俺よりはるかに体格のいい柔道部員たちが畳の上で汗だくになりながら組み合っていた。
「うわ、すごい迫力」
想像以上の迫力に圧倒されている俺に「休憩の時にでも、勧誘してみ?」とだけ言って練習の輪の中に入っていく誠也。
勧誘って……こんな真剣に練習してる人達がゴリラ研究部に入るなんてことがあったら、それこそ奇跡に等しいよな。
やっぱり帰宅部の人達にチラシ配ってた方が───
「……ほえっ!?」
ふいに背後に大きな気配を感じて振り返った瞬間、完全に思考が停止した。
間抜けな声が漏れて開いた口は塞がらないし、瞬きだってきっとしていない。
「お前、一年?」
固まったままの俺に、容赦なく飛んできたのは、ドスの効いた太くて少し大きめな声。
待て待て待て待て。
「…ご、ご…ごり」
「ごり?……なんだ、それ」
俺より何倍も広いであろう肩幅、道着の胸元からチラリとのぞく胸筋、程よく焼けた小麦色の肌が汗でキラキラ光って見える。
そして何より、かっこいい。
いや、違う。
違わないけど違うんだ。
この人は、この人は──
「……ゴリラだ」
「ん?ゴリラ?」
やばいやばいやばい。
つい口に出してしまった上に、聞かれてるし、突っ込まれてる。
「あ、えっと……」
どう誤魔化そうか考えても何も出てこなくて、助けを求める視線を誠也に送っても、こちらを見る気配は一切なし。
「それ、何?」
さっきから握りしめたままだった研究部のチラシがひょいと抜き取られた。
「ん?ゴリラ研究部?」
さっきと同じドスの効いた声が響いたけど、意外にも怖くはない。そして、さらに追い打ちをかけてくる。だって、チラシを見ながら、わ、わ、笑ってるーー!しかも、体格に似合わないくらい優しくて、穏やかな笑顔。
ゴリラは基本的に温厚な生き物だ。
つまり──この人はやっぱり、ゴリラだ。
「握力、五百キロってほんとか?」
「……へ?」
「ゴリラ」
「あっ、えっと…はい。約四百キロから五百キロで、オスの大型個体だともっとあることもあります」
「おおー。すっげえな」
ちょ、ちょっと、なんなんですか、そのつぶらな瞳と夢見る少年のような笑顔は。ほんと体格と全然似合ってない。
いや、でも待てよ。
状況を把握できてなさすぎる。
そもそも、この方は一体!?
「……あの、えっと、あなたは?」
「三年、黒沼」
せ、先輩……
柔道部でもない俺が名乗りもしないで、ゴリラと言った挙句、先に名乗らせるとか、めちゃくちゃ失礼な事してないか!?
「ご、ごご、ごめんなさいっっ!!俺、一年の江花小鳥です」
深々と頭を下げた俺を見て、きょとん、としている先輩。
「知ってる」
「へ?」
「さっき、誠也が話してた」
そう言ったあと「んじゃ」と言って練習の輪の中に入っていった。
───
柔道部の練習は想像以上にハードで、見ているだけの俺が息切れしてくるくらい。
そして、ゴリラ……あ、違う。黒沼先輩はキャプテンだ。
背負い投げ?大外刈り?
技の名前はよくわからないけれど、さっき見たつぶらな瞳とのギャップがとにかく凄まじかった。強い、そしてでかい。
……ったく誠也のやつ、こんな練習見たあとに勧誘しろなんて。
「無理に決まってんじゃん!」
勧誘は諦めて、もう帰ろ。
「……ん?なんだ?」
「!!っうわぁっ!」
振り向いた途端、頭上からドスの効いたあの声が降ってきて、飛び上がった。
そんな俺を見ても動じるどころか容赦なく追い打ちがかかる。
「俺、入るぞ」
「……へ?」
「ゴリラの研究」
……は?
聞き間違えじゃないだろうか。
柔道部のキャプテンだぞ?
「あ、あの、いやぁ…まさか」
「名前、書いてきた」
同時にどすんと伸びてきた手に握られているのは、部員募集のチラシ。
俺が持つよりも、きっとふた周りくらいは小さく見える。
「ん」と押し付けられたチラシを受け取って恐る恐る開くと入部希望の欄のマス目いっぱいに書かれている文字。トメやハライはきっちりしているのに、全体を見るとどうにも歪んでみえる。
”三年 黒沼 小春”
柔道部キャプテン、身長百八十センチ越え……どうしよう。
ゴリラ研究部、最初の部員がゴリラなんだけど。
──
「ほら、サボるな!しっかり取れ」
「しゃあっ!」
「おらぁ!」
誠也に続いて部室に入った途端、熱気と一緒に太い声が聞こえてくる。
俺よりはるかに体格のいい柔道部員たちが畳の上で汗だくになりながら組み合っていた。
「うわ、すごい迫力」
想像以上の迫力に圧倒されている俺に「休憩の時にでも、勧誘してみ?」とだけ言って練習の輪の中に入っていく誠也。
勧誘って……こんな真剣に練習してる人達がゴリラ研究部に入るなんてことがあったら、それこそ奇跡に等しいよな。
やっぱり帰宅部の人達にチラシ配ってた方が───
「……ほえっ!?」
ふいに背後に大きな気配を感じて振り返った瞬間、完全に思考が停止した。
間抜けな声が漏れて開いた口は塞がらないし、瞬きだってきっとしていない。
「お前、一年?」
固まったままの俺に、容赦なく飛んできたのは、ドスの効いた太くて少し大きめな声。
待て待て待て待て。
「…ご、ご…ごり」
「ごり?……なんだ、それ」
俺より何倍も広いであろう肩幅、道着の胸元からチラリとのぞく胸筋、程よく焼けた小麦色の肌が汗でキラキラ光って見える。
そして何より、かっこいい。
いや、違う。
違わないけど違うんだ。
この人は、この人は──
「……ゴリラだ」
「ん?ゴリラ?」
やばいやばいやばい。
つい口に出してしまった上に、聞かれてるし、突っ込まれてる。
「あ、えっと……」
どう誤魔化そうか考えても何も出てこなくて、助けを求める視線を誠也に送っても、こちらを見る気配は一切なし。
「それ、何?」
さっきから握りしめたままだった研究部のチラシがひょいと抜き取られた。
「ん?ゴリラ研究部?」
さっきと同じドスの効いた声が響いたけど、意外にも怖くはない。そして、さらに追い打ちをかけてくる。だって、チラシを見ながら、わ、わ、笑ってるーー!しかも、体格に似合わないくらい優しくて、穏やかな笑顔。
ゴリラは基本的に温厚な生き物だ。
つまり──この人はやっぱり、ゴリラだ。
「握力、五百キロってほんとか?」
「……へ?」
「ゴリラ」
「あっ、えっと…はい。約四百キロから五百キロで、オスの大型個体だともっとあることもあります」
「おおー。すっげえな」
ちょ、ちょっと、なんなんですか、そのつぶらな瞳と夢見る少年のような笑顔は。ほんと体格と全然似合ってない。
いや、でも待てよ。
状況を把握できてなさすぎる。
そもそも、この方は一体!?
「……あの、えっと、あなたは?」
「三年、黒沼」
せ、先輩……
柔道部でもない俺が名乗りもしないで、ゴリラと言った挙句、先に名乗らせるとか、めちゃくちゃ失礼な事してないか!?
「ご、ごご、ごめんなさいっっ!!俺、一年の江花小鳥です」
深々と頭を下げた俺を見て、きょとん、としている先輩。
「知ってる」
「へ?」
「さっき、誠也が話してた」
そう言ったあと「んじゃ」と言って練習の輪の中に入っていった。
───
柔道部の練習は想像以上にハードで、見ているだけの俺が息切れしてくるくらい。
そして、ゴリラ……あ、違う。黒沼先輩はキャプテンだ。
背負い投げ?大外刈り?
技の名前はよくわからないけれど、さっき見たつぶらな瞳とのギャップがとにかく凄まじかった。強い、そしてでかい。
……ったく誠也のやつ、こんな練習見たあとに勧誘しろなんて。
「無理に決まってんじゃん!」
勧誘は諦めて、もう帰ろ。
「……ん?なんだ?」
「!!っうわぁっ!」
振り向いた途端、頭上からドスの効いたあの声が降ってきて、飛び上がった。
そんな俺を見ても動じるどころか容赦なく追い打ちがかかる。
「俺、入るぞ」
「……へ?」
「ゴリラの研究」
……は?
聞き間違えじゃないだろうか。
柔道部のキャプテンだぞ?
「あ、あの、いやぁ…まさか」
「名前、書いてきた」
同時にどすんと伸びてきた手に握られているのは、部員募集のチラシ。
俺が持つよりも、きっとふた周りくらいは小さく見える。
「ん」と押し付けられたチラシを受け取って恐る恐る開くと入部希望の欄のマス目いっぱいに書かれている文字。トメやハライはきっちりしているのに、全体を見るとどうにも歪んでみえる。
”三年 黒沼 小春”
柔道部キャプテン、身長百八十センチ越え……どうしよう。
ゴリラ研究部、最初の部員がゴリラなんだけど。
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