ソフィラの話を聞いたレオナルド国王は、急遽計画を変更した。
彼自身はアストリウス国に留まり、エルナリス国には宰相と親衛隊の四人を送ることにした。
そして、執務室に閉じこもり、精神を集中して考えていくと、今まで見落としていたいくつかの疑念が、立て続けに頭をよぎった。
あのリリルはただの下級女官で、魔女ではないようだ。 しかし、ただの女官だとしたら、行動が出しゃばりすぎていたのではないか。
彼女はセシリア王女を操る力を持っているのか。 それとも、何も関係がないのか。
「まだよくわからない。私のセシリアは誰で、どこにいるのだろうか」
レオナルドは低く呟き、苦痛に耐えかねたように額を押さえた。
*
夜が更けきった頃、レオナルドは再びソフィラを呼びつけた。
ソフィラは牢屋ではなく、個室を与えられていた。
しかし、その部屋にはふたりの見張りが控えていて逃げられない。
国王がいつ、どのような沙汰を下すのかと考えると、息のつまるような不安でいっぱいだった。
レオナルド王とは、髪が銀色で目が黄色い冷血な国王で、気に入らない人をすぐに死刑にする。そういう噂をセシリア王女の耳に入れたのは、ソフィラだった。それがきっかけで王女は不安になってしまったのかもしれない。
セシリア王女は気丈で、男性にも劣らない強い信念を持った人だった。でも、嫁ぐ前には極度に緊張していて、弱気になっていたところに、あの噂のために、不安が募っていったのかもしれない。
だから、幼馴染であるアランの優しさを思い出し、どうしても会いたくなってしまったのだろう。
それが、すべての始まりだと、ソフィラは感じていた。
自分も、そういう噂を聞いたから伝えただけで、悪い意図などなかった。でも、自分の軽率な言動が事態を引き起こしたことは確かだ。
この責任を取らされるのは、仕方ないことだろうと、ソフィラは覚悟を決めていたが、私は死刑になるのだろうか。そのことを考えると、身の毛がよだつ。
しかし、レオナルド王の部屋に連れて行かれた時、彼は意外にも優しい顔をしてこう言った。
「おまえには、免責特権を与えよう」
「はい?」 とソフィラが、首を傾げた。「免責特権とは何ですか?」
「おまえがこれから話すことについては、いかなる罪も問わない」
「それは、どういうことですか」
「何を話しても、罪にはならないということだ」
「死刑にはならないということですか」
「そうだ」
レオナルド王は、やはり、そういう無責任な噂が流れていたのかと苦笑した。
「正直に話せば、死刑にはしない」
「はい。ありがとうございます」
「ただし」
レオナルドの声色が一変し、有無を言わせぬ響きを帯びていた。
「嘘をついたり、隠したりした場合には、話は別だ。そのことは、よく覚えておきなさい」
「はい。私は、正直に話すことを誓います」
ソフィラの声は、恐ろしさに震えていた。
「それでは、聞こう」
レオナルドはソフィラに近づき、質問を投げかけた。
「おまえが仕えていた王女セシリアは、今どこにいるのか」
ソフィラはしばし黙っていたが、心を決めて顔を上げた。
「それが、私にも、わからないのです」
「本当か」
「まぎれもなく本当です」
「それでは、二週間前、ここに輿入れしてきたセシリアという王女がいる。あれは誰だ」
「あのお方は……」
「その王女と、おまえが仕えていた王女セシリアは、同一人物なのか?」
「意味がわかりません」
「何のどこがわからないのだ」
レオナルド王は癇癪を起してテーブルを叩いたので、ソフィラは震えあがった。
「何を話しても、罪に問われることはないのですね?」
「くどいぞ。この王に二言はない」
「はい。セシリア様は嫁ぐ寸前になり、大事な用事を思い出されたのです。それで、そこに寄ってから、こちらに来ることになりました。でも、私が寝ている間に決まったようで、朝になって聞かされたので、詳しいことは知らないのです」
「それで、どうした?」
「セシリア様が用事をすまされるのには二、三日かかるので、弟様のエリウス王子とリリルが先にアストリウス国に行って時間稼ぎをし、その後でセシリア様が行かれるという計画でした」
「時間稼ぎ? どのようにして」
「身代わりです」
なんだと。
激しい動揺が彼を襲ったが、彼は深く息を吐き出し、懸命に冷静さを取り戻した。
「そもそも、どうしてそんな馬鹿げた話になったのだ」
「セシリア様は一度決めたら引かないお強い方ですし、エリウス様はとてもナイーブな方なので、まるめこむ、いいえ、失礼しました、理解を得るのは難しいことではないと思います」
そういうことか。そこが、すべての謎の鍵なのだ。
「では聞くが、その弟王子はどんな外見をしているのか」
「エリウス様はとても美しい方で、まるで女子のよう。いいえ、女子よりも美しい方です」
「では、エリウス王子はいくつだ」
「十六歳でございます」
ああ、なるほど。あのセシリアが、二十一歳ではなかったのは確かだ。
その瞬間、すべてが一点に収束し、腑に落ちた。
「エリウス様はセシリア様のたっての頼みで、わずか数日間だけ、なんとか引き延ばそうとしただけです。でも、事情ができて、セシリア様がすぐに駆け付けてこられなかったのです」
「では、リリルは誰なのか?」
レオナルドが、急かすように尋ねた。
「リリルはセシリア様付きの女官でしたが、今回の結婚に際して、エリウス様付きの女官となり、共にこちらに来たのです」
「そういうことだったのか」
とレオナルドが、深くため息をついた。リリルは、魔女ではなかったのか。
「エリウス様とリリルは、どこにいますか。まさか、死刑に」
「するわけがない。続けなさい」
「ですから、セシリア様はアラン様にお会いした後、約束通りアストリウス国へ向かいました」
「アラン?」
ああ、口を滑らしてしまった、とソフィラが青くなった。
「いいえ、あのう、アラン様はただの幼馴染の兵士で、兄のような存在。お会いした後は、すぐにアストリウス国へ馬車で向かうつもりでしたが、セシリア様は馬のほうが早いとおひとりで馬を走らせ、私は馬車で後を追いましたが、……セシリア様の馬だけが戻ってきて……」
レオナルドはソフィラに三回説明させて、ようやく、そこまでの話の筋がわかった。



