田邉くんの××がすごい!

「じゃ、行ってきます」

 肩を完治させた田邊は県大会へ出場し、見事優勝を果たした。
その勢いのまま全国大会への切符も掴み、県外で行われる大会のため、しばらく寮を空けることになった。

「あー……淳にも来てほしい……」

 そう言ったきり、啓介は玄関の前で立ち止まったまま動こうとしない。

「行ってきます」なんて威勢よく言ったくせに、俺と離れるのがよほど嫌らしい。
受験を控えている俺は学校を休んで応援に行くことなんてできないのだが、啓介は数日前からずっと駄々をこねていた。

「帰ってきたら、美味しいものいっぱい作るから」

 そう言って抱きついてくる啓介の頭を、俺は優しく撫でる。

「三食、淳のご飯がいい」
「帰ってきたらハンバーグにする? それとも俺にする?」

 冗談半分で返すと、啓介が目を丸くした。
俺がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。
言った本人の俺まで恥ずかしくなってしまう。

「俺の奥さん、最高でしょ」

 嬉しそうに笑う啓介を見ていると、ますます顔が熱くなった。

「あーもう! 早く行きなさい!」

 照れ隠しに背中を押すと、啓介は名残惜しそうに振り返る。

「……ん。じゃあ、今度こそ行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」

 ようやく歩き出した大きな背中を見送り、心の中で「頑張れ」と小さく呟く。
すると数歩進んだところで、啓介がまた振り返った。

「先輩、俺がいない間、誰とも仲良くしちゃダメですからね!」
「もう! いいから行け!」

 思わず笑いながら手を振る。
一体いつになったら出発するのやら。
田邊啓介は、こう見えてとんでもない寂しがり屋なのだ。
競泳も飛込も、何をやらせても人並み外れているというのに。

 俺は苦笑しながら思う。

 田邊啓介は、「 」がすごいのだ。