バイト先の完璧男子が俺だけに素を見せてくる



 火照った身体をクールダウンさせるように、自販機でアイスを買う。
 今日は落とさないように、チューブタイプのチョコレートアイスを選んだ。
 真ん中で切り離して半分こ。ひとつは七瀬に渡した。
 アイスの口を切りながらベンチに腰掛けると、隣に座った七瀬が膝の上に頭を乗せてきた。

「わっ、どうしたの?」
「ちょっとだけ、このままで。アイスを食べている間だけでいいんで」

 仰向けになった七瀬と目が合うが、すぐに逸らされてしまう。もしかしてこれは、甘えられているのか?
 あの七瀬が、こんなに無防備な姿を見せてくるとは思わなかった。心を許してくれていると自覚すると、愛おしさが溢れかえって胸がいっぱいになった。

「キョウさん。ちょっとだけ俺の話を聞いてもらってもいいですか?」
「うん。なんでも聞くよ」

 歩み寄るように優しく微笑みかけると、七瀬はチューブアイスを咥えながら、ぽつりぽつりと過去の話をしてくれた。

「うちの両親さ、昔はすごく仲がよかったんです。子どもの前でも平気でいちゃつくような人たちで、ときどき二人でデートに行って、その帰りにアイスを買ってきてくれて。息子からすれば、ちょっとキツイものもあったんですけど、いいなぁとも思ってました。心を半分ずつ分けあっているみたいで」

 七瀬は懐かしむように目を細めている。しかしその表情には、次第に陰りが生まれた。

「だけど俺が中学のときに、父親が他に好きな人ができて、関係が一気に崩壊したんです。あれだけ仲良かった両親は喧嘩ばかりするようになって、母親は陰で泣いていて……。ああ、人間関係って、こんな風に壊れるんだなぁって、妙に冷静になる自分もいて……」

 淡々と話しているけど、傍で見ていた七瀬は相当苦しかったのだろう。真上からだと、瞳が潤み始めているのがよくわかる。
 七瀬は涙を隠すように、右腕で目元を覆った。

「そういうの見て、心の拠り所を失うのって怖いなぁって思ったんです。だから俺は、誰かに心を預けるのはやめて、一人で生きていこうって決めました」

 七瀬は涙を遠ざけるように、チューブアイスの口を噛んだ。
 こんなときにかける言葉は、相変わらず見つからない。変に知ったようなことを言っても、癇に障るだけな気がした。

 言葉では上手く寄り添えない代わりに、そっと頭を撫でてみる。ふわふわとした柔らかい髪に指を絡ませながら、ゆっくりと手を滑らせた。
 鬱陶しいと振り払われるかと心配したけど、七瀬はすりっと頭を寄せてくる。受け入れてもらえたようだ。七瀬の呼吸は、次第に深くなっていった。

「でも、違うんですよね。全部が全部、溶けて消えるわけじゃない」

 チューブが空っぽになった頃、七瀬は目元を覆っていた腕を外した。その瞳には、もう涙は滲んでいない。

「俺は、キョウさんと離れたくないです。いつか失うかもって考えるより、今を大事にしたい」

 身体を起こした七瀬は、真っすぐ俺を見つめた。

「キョウさん、好きです。俺と付き合ってください」

 瞳に宿る熱が伝染して、胸の奥を熱くさせる。
 七瀬から好きだと言われたのは三度目だけど、付き合ってくださいと言われたのは初めてだった。真剣に向き合おうとしていることが伝わってくる。
 今受け取った想いは、大切にしよう。胸の奥で凍結させるのではなく、すぐに取り出せる場所で保管して。

「うん。これからも、ずっと隣にいられるように仲良くしようね」

 そう約束すると、七瀬はふっと溶けたように微笑んだ。
 その笑い方は、サンクスカードを受け取ってもらったときと似ている。だけどあのときよりも、ずっと甘くて、温かみがあった。