届け、僕の声!

「ほ、穂高君……!」
 その日の放課後、隣のコートで準備運動をする練習着姿の穂高君を見つけて、僕は体育館中央のネットに走り寄った。
(よかった。本当に、戻ってきてくれたんだ!)
 僕は嬉しさと安堵で感極まって、ネットを手で掴みながら目頭が熱くなる。
 すると、僕の存在に気付いたのか、穂高君が僕のところに走り寄ってきた。
「よっ……」
「……!」
 明るく穂高君に挨拶されるが、僕はなんと挨拶したら良いか分からず思わず俯いてしまう。
 すると、ネットを掴んでいた僕の手に何か温かいものを感じた。
「えっ……」
 まさかと思い、僕は慌てて顔を上げる。
(う、嘘……)
 穂高君はネットを掴んでいた僕の手を包み込むように、僕の手に自分の手を重ねていた。
「えっ! あっ! ええっ……!」
 突然のことに僕は慌てふためき、心臓の鼓動は途端に跳ね上がった。
 だが、そんな僕を見つめてくる穂高君の目は真剣だった。
「俺、お前の応援にちゃんと応えられるように最後まで頑張るから」
「……ッ! うんっ! うんっ!」
 穂高君の宣言に、僕は嬉しさのあまり胸が熱くなり、何度も大きく頷いてしまう。
「じゃ、じゃあ。もう戻るな」
(あっ……)
 重ねられていた穂高君の手は、ゆっくりと離れていった。
 それでも僕の心臓は高鳴ったままで、手には穂高君の体温が残されている気がした。
 僕はその体温を忘れないようにと、胸元で自分の手を反対の手で覆い隠した。
「僕……今度の試合、応援行くから!」
「ああ、待ってる。あの格好をまたしてくれるのか?」
「あの格好……? あ! し、しない! あれはもうお終い!」
 穂高君が言っているあの格好というのが、長ラン姿のことをだと気付くと、僕は必死に首を横に振った。
「なんだ、残念。じゃあ、お互い練習頑張ろうな」
 穂高君は悪戯した子どものように、でも嬉しそうに笑って、元いた場所に戻っていこうとする。
(ああ、なんて……)
 愛おしい。
 その背中を見つめた瞬間、僕はこの胸の高鳴りの理由を理解した。
(ぼ、僕、穂高君のことが……う、うわっ、ど、ど、どうしよう!)
 胸が騒めいて、顔が熱くなるのを感じた僕は、慌てて自分の練習に戻ろうと回れ右をした。
「七瀬ッ!」
 だが、穂高君に名前を叫ばれて僕は慌てて振り向く。
「な……」
「俺、お前がずっとうちの試合観に来てたの知ってたからー!」
(えっ……)
「俺のことを、ずっと応援してくれてたんだな! ありがとうな! 俺、必ずインターハイいくから! そしたら……七瀬に伝えたいことがあるんだ!」
(伝えたいこと……そんなの僕だって……!)
「ああ! 僕も穂高君に伝えたい! だから試合、必ず勝ってくれ!」
 穂高君は僕にガッツポーズをしてみせてくれた。
 今はまだ素直に言えない気持ち。
 でも、次こそはきっと言える気がする。
 僕たちは互いに手を振って、自分たちの練習に戻っていった。
 でも、僕の頬は熱いままだった。
 この気持ち、穂高君と一緒だと嬉しいのに。