叙情的現象解体文学

『努力フィルター』

 監視カメラは、人類の素晴らしい発明です。
 犯罪発生の抑止力として働きます。
 現在では、プライバシーの問題も抱えています。
 でも、人は望んで監視されるんです。
 だって、そうでしょう。あなたがたも同じです。
 監視カメラはいつまでも増え続ける一方です。
 一体いつになったら、気づくんでしょう。
 さぁ、分かりません。

 ダイエットが、上手く行かない。
 なんでだろう、少女は悩んでいた。
 自分なりには頑張っている。
 でも、体重が落ちない。
 可愛く、ならない。
 どうしたらいいんだろう。悩みながらテレビを付けた。
 画面の中で、有名人が言っていた。
「努力は裏切らないんだ」と
 少女は救われた気分になった。
 もっと痩せよう。頑張れば報われる。絶対みんなに可愛いって言ってもらえる。
 ありのままの私じゃダメだ。
 どうにか現状を抜け出さなきゃいけない。
 頑張っていれば、きっと救われる。
 先生たちも、努力しろって口酸っぱく言っていた。
 そうだ、まだ私は努力が足りない。
 少女はその日の夕食を抜いた。
 細くて今にも折れそうな足が、風に吹かれている。


 もう、仕事に疲れた。
 明日朝、どうしたって起きられる気がしない。
 今までそれなりに頑張ってきたつもりだ。
 理不尽な叱責にも耐えてきた。
 自分のミスじゃなくても、丁寧に腰を折った。
 勉強も頑張ってきたつもりだ。
 役に立ったかどうかはよくわからない。
 でも、よい成績が取れるよう、自分なりに工夫をしてきた。
 なのに、どうして。悩みながらテレビを付けた。
 画面の中で、画面の中で、有名人が言っていた。
「努力は裏切らないんだ」と
 なるほど、救われた気分になった。
 もっと、仕事しよう。頑張れば報われる。もっと偉人を手にしたい。
 今の俺には努力が足りないんだ。
 危ない。人生の脱落者になるところだった。
 誰のお陰で食べられていると思っているんだ。ふざけるな。
 ああいう奴らは努力が足りないんだ。社会を回すコマになれ。
 苦労は買ってでもって、誰かが言っていたじゃないか。
 そうだ。努力こそ、自分を救ってくれる道じゃないか。
 青年は、仕事鞄からパソコンを取り出し、資料作りを始めた。
 充血した水晶体の酸素が死ぬとも知らず。


 子どもの面倒が見切れない。
 次々想定外のことばかり起きるし、なに一つ思い通りになってくれない。
 汚したシーツを洗わなきゃいけない。
 さっき倒したコップの水は、まだ拭いてない。
 家事の負担も平等だと全く思えない。
 今すぐにでも叫んでしまいたい。
 でも、子どもが悪いわけでもないから絶対できない。
 どうしたら楽になるだろう。
 もう、生きるのすらやめてしまいたい。
 頭を掻きむしりながらテレビを付けた。
 画面の中で、有名人が言っていた。
「努力は裏切らないんだ」と
 母親はとても救われた気分になった。
 じゃあ必ず、報われる日が来るんだ。
 今は大変でも、絶対報われる瞬間が来るんだ。
 よかった。頑張らない親になるところだった。
 あの楽しそうな親たちは、いずれ大変な目に遭うんだ。
 頑張っているからこそ救われるんだ。
 どうせ、頑張っていない親の子なんてたかが知れてるんだ。
 この世界は釣り合い取れるようになってるんだ。
 子育て楽しいとか言う人なんか、潰れてしまえばいいのに。
 甘えるなよ。
 母親は、皿洗いを再開した。ひび割れた指が赤く染まる。


 高いシヤンパンのボトルを開け、そのまま中身を垂直落下させた。
 周囲から歓声があがる。
「流石ですね」「もっと行きましょう」「今夜は無礼講で」
 どいつもこいつも浮かれてやがる。
 気に入らない。
 そこら辺にいた、汚らしい男を捕まえて四つん這いにした。
 シャンパンのボトルを頭からかける。
 周囲から歓声があがる中、男は「どうしてこんなことを」と言った。
 愚問すぎて、なんの感傷もなかった。
「俺は努力したんだよ」