影神様は私をとらえて逃がさない ~約束の花嫁~【マンガシナリオ】

〇神統学舎・神具実習室
静まる生徒たち
初めての実習授業
広い石畳の訓練場
神子候補たちが並ぶ
天城が前へ出る。
天城「本日は神具起動の基礎実習を行う」
八雲とモブ教師が神具を運んでくる
実習場中央
台座の上に置かれた二つの神具
銀色の鏡のような神具が、淡く神気を帯びている
天城「この神具は天統院管理の神宝庫より貸与されたものだ」
生徒たちざわっ
天城「極めて貴重な品である」
天城「取り扱いには十分注意しろ」
天城「一つ作るだけでも莫大な神力と年月を要する」
天城「破損した場合、代替は容易ではない」
天城、鋭い視線
「丁重に扱え」
生徒たち緊張
〇甲組
次々と神具が光る
「おお……!」
「すごい……!」
失敗者もいるが、それでも反応はある
甲組のレベルの高さが伝わる
天城「神代麗華」
麗華前へ
優雅に一礼
神具へ手を添える
ふわっ
柔らかな金色の光
神具が眩く輝く
周囲どよめく
「綺麗……!」
「さすが神代家!」
「やっぱり違うな」
天城も頷く
天城「見事だ」
天城「一年の中では頭ひとつ抜けている」
麗華微笑む
しかし視線は澪へ
麗華(見ている?)
麗華(これが私)
麗華(あなたとの差よ)

〇乙組
天城「次」
乙組の生徒が前へ出る
神具に触れる
ふわりと淡い光
周囲「おお」
天城「合格」
別の生徒
神具に触れる
しん
反応なし
生徒「うっ……」
天城「次」
成功する者もいれば失敗する者もいる
可もなく不可もなく
乙組らしい結果が続いていく

〇丙組
天城「次」
丙組の生徒が神具へ触れる
しん
何も起こらない
生徒「……」
天城「次」
別の生徒
しん
また失敗
甲組から小さな笑い声
甲組生徒A「やっぱり丙組だな」
甲組生徒B「全然光ってないじゃない」
くすくす
丙組の生徒たちは俯く

紬の番
神具が一瞬光る
しかし――
パチッ
消える
紬「うっ……」
甲組生徒A
「今の見た?」
甲組生徒B
「一瞬だった」
甲組生徒C
「可哀想」
くすくす
紬、悔しそうに唇を噛む

天城「次」「神代澪」
周囲がざわつく。
「あの適性なしの」
「久遠様推薦の?」
「本当に何で入学できたんだ?」
澪、前へ出る。
天城は無言で神具を見る。
そして澪を見る。
神晶石がひび割れた日のことが脳裏をよぎる。
澪、神具へ手を伸ばす。
天城「……ゆっくり神力を流せ」
澪「はい」
そっと触れる。
沈黙。
何も起きない。
ざわっ。
天城の眉がわずかに動く。
天城「もう一度だ」
澪「……はい」
再び神具へ触れる。
やはり反応はない。
天城「……」
神具を確認する。
異常なし。
澪を見る。
天城「神力の流れが乱れている」
澪「……」
天城「基礎訓練からやり直せ」
天城「今のお前に神具は扱えない」
澪「……はい」

天城「本日の実習は終了」
「結果は各自受け止めろ」
「解散」
授業終了
生徒たちが帰っていく
麗華の周りには自然と人が集まる
女子生徒
「麗華さん、本当にすごかったわ!」
男子生徒
「神具、あんなに光るの初めて見た」
女子生徒
「今年の一年で一番期待されてるって話よね!」
麗華、柔らかく微笑む
麗華「そんなことありませんわ」

一方
澪はその場に立ち尽くしている
紬「澪」
澪、振り返る
紬「私、門限あるから寮帰るけど……校門まで一緒に行く?」
澪「私はもう少し、ここにいようかな」
お互い、さっきの実習の結果を気にしている
紬「気にすんなって言いたいけど」
紬、苦笑い
紬「私も普通に落ち込んでる」
澪、目を瞬く
澪「紬でも……?」
紬「私でも!」
紬「甲組見てたら嫌になるし」
紬「あー」
ぱちん!と両手で頬を叩く
紬「こんな時は食べてよく寝るに限る。
てことで、帰る!」
澪、思わず小さく笑う
紬「また明日!」
走っていく
澪「……また明日」
紬が去る
静かになる
測定できなかった結晶石のことや、さきほどの実習を思い浮かべる
澪(私は、何ができるんだろう)
(自ら命を絶とうとして、久遠様に拾われて)
(流されるように学舎に来て)
(結局、何もできない)

その時
背後の壁際の影が、ゆらりと揺れた
澪「……?」
黒い影が音もなく広がる
そこから一人の男が現れる
久遠「大丈夫?」
澪「ひゃっ!?」
飛び上がる。
澪「く、久遠様!?」
久遠「うん」
澪「な、なんでここに……」
久遠「迎えに来た」
久遠、澪をのぞき込む
久遠「澪が、落ち込んでるんじゃないかと思って」
澪「え……」
澪(なんで、そんなこと……)
久遠「分かるよ」
澪「どうして?」
久遠、少しだけ首を傾げる
久遠「だって」
ふと、澪の足元の影が揺れる
澪「……?」
久遠「教えてくれるから」
澪「え?」
久遠「なんでもない」
久遠、さらりと言う
久遠、澪の手を見る
握りしめた指先
久遠「できなかった?」
澪、少し俯く
澪「……はい」
久遠「そう」
澪「みんな出来ていたのに」
澪「私だけ……」
久遠「だから?」
澪「え……?」
久遠「できなかったなら」
久遠「できるようになればいい」
あまりにも当たり前のように言う
澪、目を瞬く
澪「そんな簡単じゃ……」
久遠「簡単じゃないよ」
久遠「でも」
久遠、澪を見る
久遠「澪は諦めたいの?」
澪、言葉に詰まる

脳裏に浮かぶ
かつての神代家(一話)での酷い扱い
すべてを諦めた表情の澪
澪(ずっと、諦めてばかりの人生だった)
甲組の笑い声
麗華の光
天城の評価
『今のお前に神具は扱えない』
ぎゅっと拳を握る
澪(でも)
澪「諦めたくないです」
久遠、少しだけ目を細める
久遠「うん」
久遠「知ってた」
澪「え?」
久遠「だって」
久遠「ここにいることが、証明でしょ」
どくん
胸が鳴る
澪、慌てて視線を逸らす
久遠は続ける
久遠「じゃあさ」
澪「?」
久遠「帰ったら練習しよう」
澪「……え?」
澪、ぽかん
久遠「諦めたくないんでしょ?」
澪、目を見開く
久遠「だったら」
「できるようになるまで付き合うよ」
澪、思わず久遠を見る
澪(どうして)
(そこまでしてくれるの?)
久遠は当然のような顔をしている
久遠「行こう」
久遠が手を差し出す
澪は少し迷い、そっとその手を取る
二人の影が重なる