影神様は私をとらえて逃がさない ~約束の花嫁~【マンガシナリオ】

【6話】
〇神域・朝
豪華な朝餉
澪の隣に久遠が座る
当然のように、久遠が澪に食べさせようとする
澪「あの……自分で、食べれます……」
久遠「そう?」
少し残念そうな顔
久遠「昨日はよく眠れた?」
澪「……はい」
実際、慣れない環境(学舎)で疲れてぐっすりだった澪
久遠「そっか」
少し嬉しそう
澪が丙クラスだったことも気にしてない様子の久遠
久遠「今日はどんなことをするんだろうね」
澪「授業だと思います」
久遠「終わったら教えて」
澪「え?」
久遠「澪が何を聞いて、何を思ったか。澪のことはなんでも知りたいから」
澪、困惑。
久遠「あと、嫌なことを言われたらすぐ教えて」
昨日の注目と騒ぎを思い出す澪
澪「だ、大丈夫……です」
久遠「迎えに行くから」
澪(毎日来るつもりなんだ……)

〇神統学舎・丙組
澪登校
周囲ひそひそ
「昨日の……」
「聞いた? 影神様が迎えに来たって」
澪、居心地悪そう
丙組
紬「おはよー!」
澪「お、おはようございます」
紬「あ、それ。敬語いらない。
同い歳なんだしさ」
紬、隣に座る
紬「昨日の帰り、すごかったね」
澪「……?」
紬「四柱だよ!?」
紬「私、生まれて初めて見た」
紬「しかも迎えに来るとか意味わかんないし」
澪「そ、そうなんですか……?」
紬「そうなんですかじゃないの!」

〇昼休み
紬「お腹すいたー!」
「食堂いこ!」

〇食堂
紬「あそこ空いてるじゃん」
二人が席に向かう
その時
ドン
机に手がつく
甲組上級生「待て」
※上級
澪・紬「?」
甲組上級生「そこは甲組の席だ」
紬「決まりなんてないですよね?」
甲組上級生「一年か」
「知らないなら教えてやる」
甲組上級生「この辺りは甲組のエリアだ」
紬「は?」
甲組上級生「丙組は向こうへ行け」
食堂の隅
丙組の生徒たちが肩身狭そうに食事をしている
紬「そんなルール聞いてない」
甲組上級生「ルールじゃない」
甲組上級生「常識だ」
紬「何それ!」
そこで、上級生の視線が澪に向く
甲組上級生「……」
周囲、ひそひそ
「例の子だ」
「影神様推薦の」
上級生の表情がわずかに固まる
甲組上級生「……お前が神代澪か」
澪「……はい」
一瞬だけ沈黙
周囲も様子を窺う
上級生の喉が小さく鳴る
しかし
甲組上級生「……だから何だ」
鼻で笑う
甲組上級生「影神様のお気に入りだろうが」
甲組上級生「ここは学舎だ」
周囲を見る
まるで自分に言い聞かせるように
「結果で評価される場所だ」
澪の丙組の腕章を見る
甲組上級生「昨日の結果は出ている」
甲組上級生「お前は丙組だ」
紬「っ……」
甲組上級生「四柱の推薦なんて関係ない」
甲組上級生「その腕章が、お前の価値だ」
そう言い切る
けれど、握り締めた拳は僅かに強張っている
甲組上級生「身の丈に合った場所を使え」
澪、俯く

その時
麗華「失礼します」
上級生たちが振り向く
麗華。甲組の腕章
甲組上級生「神代麗華か」
甲組上級生「評判は聞いている」
「今年の一年でも特に有望だそうだな」
麗華「光栄ですわ」
上級生、表情を和らげる
甲組上級生「好きな席を使うといい」
麗華「ありがとうございます」
麗華、優雅に腰掛ける
そして、立ち尽くす澪を見て
くすり
ほんの小さく微笑む
澪「……」
甲組上級生「ほら」
「まだいたのか」
しっしっと手を振る
甲組上級生「行った行った」
澪と紬、席を離れる
周囲
「嫌だわ」
「丙組が近くにいるなんて」
「無能がうつる」
くすくす

澪と紬、丙組スペースへ向かう
丙組生徒A「……こっち来るみたい」
丙組生徒B「影神様のお気に入りなんだろ?」
丙組生徒A「なんで丙組なんだろ」
丙組生徒B「さあ……」
ひそひそ
澪、視線を落とす
どこへ行っても
向けられるのは好奇と疑念の視線ばかり
紬「なんっなのあれ!?」
怒りながら席に着く
紬「甲組だからって偉いと思ってるんだよ」
紬「ほんっと感じ悪い」
澪、小さく俯く
紬、ぷんすか
紬「それにさっきの」
紬「神代麗華だっけ?」
澪、ぴくり
紬、気づかず続ける
紬「有望株だか何だか知らないけど」
紬「何か感じ悪くない?」
紬「目が笑ってないっていうか」
紬「いかにも『私は特別です』って顔してるし」
澪「……」
紬「私ああいうタイプ苦手なんだよね」
そこで紬、ふと気付く
紬「……あ」
澪、視線を落とす
紬「ご、ごめん!」
紬「神代って同じ名字だし……」
紬「もしかして親戚!?」
澪「従妹なの」
紬「うわぁぁぁぁ!」
頭を抱える
紬「ごめん!」
紬「初日からやらかした!」
澪、思わず目を丸くする
紬「でも訂正しない!」
澪「え?」
紬「だって本当に感じ悪かったもん!」
澪「……」
ぱちくり
紬「……あ」
紬「やっぱ今のなしで」
澪、ぷっと吹き出す
紬「あ!」
澪「ふふ……」
紬「笑った!」
澪、慌てる
紬「そっちの方が絶対いい」
澪「……そうかな」
紬「うん」
紬「最初会った時、すごい暗かったし」
澪「……」
紬「でも今の方が好き」
澪、少し照れる
紬「ねぇ、神代さんって……いや、澪って呼んでもいい?」
澪「は、はい」
紬「あ、また敬語」
紬「私のことは紬でいーよ!」
澪「う……うん」
ぎこちなく頷く
紬「よし!」
紬「じゃあ聞くけど」
澪「?」
紬「私と友達になってくれる?」
澪(……友達)
澪、目をぱちぱち
そんなこと、聞かれたこともなかった
澪「……どうして?」
紬「え?」
澪「どうして、そんなふうに……」
紬「別に深い理由ないよ?」
紬「なんとなく気が合いそうだったから」
澪「……それだけ?」
紬「それだけ」
紬「友達になるのに理由いる?」
澪、言葉を失う
今まで、誰かに近づかれる時はいつだって理由があった
神代家だから
利用価値があるから
けれど
紬「私は友達になりたいなーって思っただけ」
にへっと笑う
澪「……変わってる」
紬「よく言われる!」
紬「それで?」
澪「え?」
紬「友達、なってくれる?」
澪、小さく笑う
澪「……うん」
紬「ほんと!?」
澪「うん」
紬、ぱっと顔を輝かせる
紬「やった!」
紬「じゃあ今日から友達ね!」
澪「今日から……」
紬「うん!」
紬「よろしくね、澪」
澪、少し照れながら
澪「……よろしく、紬」

紬「あ、そうだ」
紬「澪って寮どこ?」
澪「……寮?」
紬「うん。私は桜寮だったよ」
澪「寮じゃ……ない」
紬「え?」
澪「久遠様のお屋敷から通っているの」
紬「へ?」
紬「え、お屋敷って……」
澪「えっと……神域、です」
紬「…………は?」
澪、きょとん
紬「待って待って待って」
紬「四柱の神域?」
澪、頷く
紬「一緒に住んでるの?」
澪「そうなります」
紬「そうなります!?!?」
周囲もざわつく
周囲「今、神域っていった……?」
「四柱の神域って……」
「神子でもないのに神域に入れるなんて、聞いたことがないぞ」
ざわざわ
澪、少し居心地悪そう
紬、その様子を見て
紬「みんな影神様の話ばっかりだね」
澪「……」
紬「でも私」
紬「四柱に気に入られた澪じゃなくて」
紬「丙組の同級生の澪と友達になったつもりなんだけどな」
澪、目を見開く
紬「だから、あんまり気にしなくていいよ」
紬、にっと笑う
澪、少しだけ目を伏せる
澪「……ありがとう」

放課後
校門へ向かう澪。紬は寮へ帰っていく
紬「じゃあまた明日!」
澪も少し声を張る
澪「……また明日!」
紬、嬉しそうに去っていく

澪、門の外に一歩出る
足元の影が揺れる
するり
影の中から久遠が姿を現す
久遠「お疲れ、澪」
澪「久遠様」
久遠「今日はどうだった?」
澪、少し考える
思い浮かぶのは、明るく笑う紬の顔
澪「……友達が、できました」
久遠「友達」
一瞬だけ固まる
澪「はい」
久遠「ふぅん」
少し沈黙
久遠「どんな子?」
澪「え?」
久遠「その友達」
澪、少し考える
澪「明るくて」
「よく喋って」
「少し変わった子です」
紬の
『友達になるのに理由いる?』
という言葉を思い出す
澪「でも……優しい子です」
自然と顔が綻ぶ
澪「……また明日、が」
澪、ぽそりと
「楽しみなの、いつぶりだろう」
久遠「そう」
静かに微笑む
けれど影が、わずかに揺れる
久遠(この子の世界が)
(ひとつ、広がった)
久遠「……喜ばなくちゃいけないのにね」
澪「え?」
久遠「なんでもない」