影神様は私をとらえて逃がさない ~約束の花嫁~【マンガシナリオ】

〇神域
影が揺れる
澪と久遠が現れる
しん……
静かな神域
澪(戻ってきた……)
日輪の言葉を思い出す
『神は一度これと決めたものには執着が強い』
『その代わり、生涯大切にするんだ』
澪(生涯……)
久遠「……くさい」
澪「えっ」
澪の隣に立つ久遠、嫌そうに顔をしかめる
久遠「日輪」
澪「え?」
久遠「日輪の気配がする」
澪「そ、そうなんですか?」
久遠「する」
即答
久遠、近づいて匂いを嗅ぐ
澪「ち、近いです」
久遠「まだする」
澪「……」
久遠「最悪」
澪(そんなに……?)
久遠「澪から他の神の気配がする」
「……気に入らない」
久遠、澪の手を引く
そのままソファへ
澪「きゃっ」
ぽすっ
座らされる澪
久遠も隣へ座る
ぴたり
澪「く、久遠様」
久遠「上書き」
澪「上書き……」
久遠「うん」
さらに距離が近い
肩が触れる
澪(近い……)
どくん
心臓が鳴る
久遠「まだ残ってる」
澪「そ、そんなにですか?」
久遠「うん」
真顔
久遠「上書き終わるまで離さないから」
澪「……!」
澪、固まる
久遠は気にした様子もない

その時
影が近づいてくる
お盆を持った影
湯気の立つお茶
澪「ありがとう」
自然と零れた言葉
影、ぺこり
するすると去っていく
久遠「……」
澪「?」
久遠は何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ目を細める。
懐かしいものを見るように
優しく、どこか切なげに
澪「久遠様?」
一瞬だけ視線を逸らす
澪(何だろう、今……)
久遠「薄くなった」
澪「え?」
久遠「日輪の気配」
澪「そ、そうですか」
久遠「でも」
「まだ少し残ってる」
さらり
澪の髪を指に絡める
澪「っ」
久遠「……」
じっと見る
久遠「僕以外の気配はいらない」
澪、顔が赤い
久遠「澪?」
久遠、首を傾げる
澪「な、なんでもありません……」
澪(私だけ、変に意識してるみたいだ……)

〇学舎・実習室
昼休み
神具を囲む丙組。
以前よりずっと賑やかだ
紬「で!」
机をばんっ
紬「ぶっちゃけどうなの!?」
澪「えっ」
紬「愛し子!」
朔「ああ」
女子生徒「気になる」
男子生徒「気になるな」
澪「いや……」
澪困った顔
澪「それはまだ……」
紬「でも四柱だよ!?」
朔「お前が興奮しすぎだ」
紬「だって気になるじゃん!」
女子生徒「私だったら緊張して倒れる」
男子生徒「俺なら逃げる」
朔「それは分かる」
くすくす
笑いが起こる
八雲「お前らなぁ」
全員ぴたり
八雲「盛り上がってるけどな」
神具を指差す
八雲「まずはそれをまともに扱えるようになることが先だろ」
紬「ぐっ」
朔「正論」
女子生徒「何も言えない……」
男子生徒「先生が珍しくまともなこと言った」
八雲「おい」
わはは
実習室に笑い声が広がる
澪も思わず笑う
澪「……ふふ」
紬、朔、みんなの笑顔
澪、周囲を見渡す
澪(みんな……)
澪(私を特別扱いしない)
(怖がらない)
(見下さない)
(ただ――)
紬「おーい、澪!」
澪「え?」
紬「聞いてる?」
また笑い声
澪、少し目を細める
澪(私……)
胸の奥がじんわり温かくなる
澪(ここが好きだ)
脳裏をよぎる神代家での過去
小さくなって俯く澪
義父・義母「役立たず」
麗華「邪魔よ」
向けられていた冷たい視線

現在
紬たちの笑い声
澪(私一人じゃ)
(辿り着けなかった場所)
ふと思い出す
さらりと揺れる黒い髪
静かな銀灰色の瞳
澪(その機会をくれたのは――)
思い浮かぶのは久遠の姿
紬「おーい、澪!」
澪「えっ」
紬「聞いてる?」
澪「あ、ごめん」
紬「珍しくぼーっとしてた」
朔「疲れてんじゃないか」
女子生徒「試験も近いしね」
澪「うん」
小さく笑う
澪(名前を呼ばれることも)
(気にかけてもらえることも)
まだ少し、くすぐったい

〇学舎・中庭
放課後
澪、一人で歩いている
風が吹いて木々が揺れる
空を見上げる
快晴に目を細める
ふと脳裏をよぎる
『僕以外の気配はいらない』
澪「……っ」
思わず顔が熱くなる。
澪(何を思い出してるんだろう……)
小さく首を振る
その時
――ぞくり
澪「……っ」
足が止まる
背筋を冷たいものが這い上がった
誰かに見られている、そんな感覚
澪「……?」
辺りを見回す
誰もいない
木々が揺れているだけ
澪(気のせい……?)
歩き出そうとして、声
???「なるほど」
澪「!」
振り返る
いつの間にか、少し離れた木の下に男が立っていた
長い黒髪、黒い外套
顔はよく見えない
だが、何故か本能が警鐘を鳴らす
澪(――近づいてはいけない)
そう告げていた
男は澪を見つめている
じっと
観察するように
値踏みするように
???「お前か」
澪「……誰ですか」
男は答えない
代わりに、ふっと口元を歪める
???「なるほどな」
澪「……」
ぞくり
理由もなく寒気がする
次の瞬間、風が吹く
思わず目を閉じる
再び目を開けた時には誰もいない
澪「え……」
しん
静かな中庭
残っているのは澪一人
澪(今の……)
胸騒ぎだけが残る

誰にも聞こえない場所で。
男――(かつ)が笑う
渇「愛し子、ね」
くつくつ
喉の奥で笑う
渇「面白い」