影神様は私をとらえて逃がさない ~約束の花嫁~【マンガシナリオ】

〇講堂
しん――
講堂が静まり返る
紬「えっ」
朔「は?」
女子生徒「愛し子……?」
男子生徒「今なんて……」
麗華「――っ」
日輪、ぱちぱちと瞬きをする
そして、ゆっくりと笑み
しかし目は真剣
日輪「愛し子?」
久遠「そうだよ」
日輪「まだそうとは決まってないだろう?」
講堂が再び静まる。
日輪「愛し子は神が選ぶだけじゃない」
日輪「人も神を選ぶ」
日輪「さっき説明したばかりだよ」
久遠「同じだよ」
あっさりと
久遠「いずれはそうなるんだから」
全校生徒、固まる
紬(小声)「言い切った……」
朔(小声)「言い切ったな……」
麗華、呆然
日輪「それは分からない」
日輪、澪を見る
日輪「選ぶのは澪なんだから」
澪「えっ」
突然名前を呼ばれ、思わず肩が跳ねる
久遠「……」
目を細める
講堂の空気がぴりりと張り詰める
誰も声を出せない
数秒沈黙
日輪が吹き出す
日輪「あはは」
久遠「……」
日輪「あはははは!」
腹を抱えて笑う
久遠「何がおかしいの」
日輪「だって」
笑いを堪えながら
日輪「君のそんな顔、初めて見た」
講堂中が静まり返る
日輪「天統院から話を聞いたときは」
「正直半信半疑だったけど」
日輪「愛し子候補を見つけたから認めろなんて」
「君らしくもない話だったからね」
日輪、ふっと澪を見る
日輪「でも」
日輪「なるほどね」
「本当に気に入ってるんだ」
久遠「当たり前」
久遠「僕の唯一なんだから」
しん――
講堂が凍り付く
紬「唯一……」
朔「重いな」
紬「しっ聞こえる!」
日輪「うん」「分かった」
ぱんっ
日輪、手を叩く
日輪「それじゃあ授業はここまで」

ざわざわ
生徒たちが立ち上がる
澪も席を立つ
その背中に、声がかかる
日輪「神代澪」
日輪「は、はい」
日輪「この後、少し話そうか」
澪「え?」
日輪「心配しなくていい」
「ただの雑談だよ」
にっこり笑う
久遠「……」
じっと見ている

〇授業後・応接室
日輪「どうぞ」
澪「失礼します」
部屋へ入る
その後ろから、当然のように入ろうとする久遠
日輪「君は外」
久遠「……」
日輪「外」
久遠「……」
日輪「外」
ばたん
扉が閉まる
久遠「……」
廊下に取り残される

〇応接室
澪「……」
ぽかん
日輪「ごめんね」
日輪「少し話したくて」
澪「はい」
日輪「正直」
「驚いてるんだ」
澪「え?」
日輪「あの久遠が」
「ここまで人間に執着するなんてね」
澪「……」
日輪「力のある神ほど」
「愛し子を持たないことも多い」
澪「そうなんですか?」
日輪「うん」
日輪「愛し子は神を強くする」
「神格を高めるし」
「力も増す」
日輪「でも」
「失った時の代償も大きい」
澪「……」
日輪「愛し子は半身だから」
「失えば神は大きな傷を負う」
「神格を失うことさえある」
澪、息を呑む
日輪「だから強い神ほど慎重になる」
「特に四柱はね」
静かな声
日輪「授業でも言ったけど」
「愛し子には神と人」
「双方の同意が必要だ」
日輪「正確には天統院も含めて三者だね」
澪「……」
日輪「ただし」
日輪「僕たち四柱は例外なんだ」
澪「例外……?」
日輪「その気になれば」
「僕たちだけの意思で愛し子へ変えることもできる」
澪「……!」
日輪「もっとも」
「現代では禁忌に近いけどね」
日輪「でも」
「久遠はそうしなかった」
澪「……」
日輪「君を神域へ閉じ込めることも」
「愛し子へ変えることもできた」
澪、目を見開く
日輪「それでもしていない」
日輪「君が選ぶのを待っている」
しん
澪の脳裏に、久遠の姿が浮かぶ
日輪「だから、焦らなくていい」
日輪「君が選ぶんだ」

〇廊下
久遠、壁にもたれて待っている
その様子を遠くから見つめる麗華
拳が震える
麗華(おかしい)(おかしいおかしいおかしい)
脳裏を離れない
『僕の唯一なんだから』
麗華(私の方が相応しい)
(私の方が神気も強い)
(私の方が優秀なのに)
ぎりっ
爪が食い込む
麗華(久遠様は騙されている)
(あの女に惑わされているだけ)
ゆっくり顔を上げる
その瞳に宿るのは執着
麗華「お伝えしなければ」
麗華「本当に相応しいのは誰なのか」
麗華「久遠様」
取り繕った笑みで近づく
久遠、目を向ける
久遠「誰」
無感情な瞳
麗華、少し狼狽える
麗華「……神代麗華です。澪の従妹の」
久遠「そう」
興味をなくし、視線を応接室へ戻す
麗華「あっあの……!」
「私は甲組首席です!」
「神気量も学年一位で――」
久遠、視線を向けない
麗華「……っ。澪は昔から何の才覚もない娘です!」
「私の方が、きっと久遠様のお役に立て――」
久遠「だから?」
久遠の冷たい視線
麗華「え……」
久遠「それが澪より優れている理由になるの?」
久遠「僕は澪を選んだ。――君じゃない」
久遠「それがすべて」
麗華「でも――」
久遠、ぞっとする笑みで
久遠「それとも、まだ僕の愛し子を愚弄する気?」
ずず……と影が麗華に忍び寄る

〇応接室の外
ガチャ
扉が開く
澪「失礼しました」
日輪「――澪」
澪、振り返る
日輪「神は一度これと決めたものには執着が強い」
澪「執着……」
日輪「でもね」
「その代わり、生涯大切にするんだ」
日輪、にこりと笑う
日輪「引き留めて悪かったね。久遠も待ってるだろう」
日輪「またね」
澪「あ……ありがとうございました」
澪、お辞儀
そのまま廊下へ

久遠「澪」
澪の姿を見た途端、ぴたりと影が止まる
へたり、と腰をぬかす麗華
澪(え……?)
久遠、麗華素通りで澪の元へ
澪「終わった?」
少しも興味がないようで、麗華には目もくれない
澪「は、はい……」
澪は麗華が気になってちらり
久遠「帰ろう」
影が現れて、二人を呑み込む

取り残された麗華
座り込んだまま俯いてぶつぶつ……
麗華「……さない」
ハイライトの消えた目で
麗華「澪……絶対に、許さない」