雨童の嫁入り~雨女と蔑まれた双子の姉は、龍神に唯一の花嫁として望まれる~

龍神の住処。
雫が雨の音で目を覚ます。
見慣れない天井。
昨日の出来事を思い出す。

雫「夢……じゃなかった」

外を見る。
優しい雨が降っている。

侍女たちに大きな広間に案内されると、龍神が待っている。

龍神「よく眠れたか」
雫「……普通、です」
龍神「そうか」

微妙な空気。

豪華な朝食。
しかし雫は手を付けない。

龍神「口に合わぬか」
雫「そうじゃないです」
龍神「なら何だ」
雫「聞きたいことがあります」

龍神を見る。

雫「どうして私だったんですか」
龍神「……雨を呼ぶ力があったからだ」
雫「……やっぱり、そうなんですね」

俯く雫。

龍神「だが、それだけではない」
雫「?」
龍神「お前だから呼んだ」
雫「意味がわかりません」
龍神「今はまだ話せぬ」
雫「なぜ……?」
龍神「信じてもらえぬだろう」

訝しげな雫を、泣きそうな顔で龍神は見つめ返す。


雫は一人で庭園を散策する。
蓮池は雨で少し水位が戻っている。
そこで一人の少年と出会う。

少年「雨嫁様!」

元気いっぱいに話しかけられて、戸惑う雫。

雫「様はやめて」
少年「どうして?」
雫「そんな立派じゃないから」
少年「でも雨降らせてくれた!」
雫「……」

やっぱり。
またそれだ。

その時。
風が吹き、蓮が揺れる。

『りゅうさまー!』

雫「……え?」

その声に振り向くと、自分をすり抜ける女の子の幻が通り過ぎる。

雫の脳裏に小さな女の子が映る。
銀髪の青年と蓮池。
少女の笑い声。

雫「っ痛……!?」

激しい頭痛を感じて、頭を抑える雫。

同じ頃。

龍神は古い社の祭壇にいた。
そこには小さな鈴。
古びた髪飾り。
子供用の草履。

龍神が、壊れ物に触れるように優しく触れる。

龍神「もう少し。もう少しだ……雨童」


暗い祠。
男に無数の蛇が絡みつく。

配下「朱雀様。龍神が花嫁を迎えました」
朱雀「知っている」
配下「やはり、雨童なのですか」
朱雀「だろうな」

眼帯を撫でる。

朱雀「殺してやったのに、再び現れるとは……生まれ変わっても忌々しい娘だ」


小さな少女は無邪気な笑顔を目の前の青年に向ける。

少女『わらし、おおきくなったら』
少女『りゅうさまのおよめさまになるー』

満面の笑みを浮かべる少女に対し、龍神が困った顔を浮かべる。
けれど、その眼差しは底抜けに優しい。

龍神『童を嫁にはできぬ』
少女『えー』
龍神『だから、待っててやるから、早く大きくおなり』
少女『ほんとう!?』
龍神『ああ』
少女『やくそくね!?』
龍神『約束だ』

そう言って、少女を抱き抱えると、嬉しそうに抱きついてくる少女。

夜。
雫が再び夢を見る。
蓮池を眺めていた少女が、振り返り微笑む。

少女『やっとあえた』
少女『りゅうさま』

少女の顔が――雫自身。

雫「!!?」

飛び起きる。
激しく鼓動する胸。

雫「……誰?」

窓の外。
雨が静かに降っている。

頬を一筋の涙が流れる。

雫「どうして……そんなに懐かしいの……?」