三日後。
新宿三丁目は相変わらず人で溢れていたが、田所探偵事務所の中は静かだった。
田所は椅子に深く座り、胃薬を一粒口に放り込む。
「……まだか」
「警察は優秀でも、瞬間移動はできません」
夏野はパソコンから目を離さずに言った。
その時、ノックもなくドアが開いた。
「相変わらず嫌なタイミングで呼ぶな」
山岸が分厚いファイルを抱えて入ってきた。
「結果が出た」
山岸は資料を机の上に並べる。
「まず、入退館ログ」
六人全員、18時から20時まで、全員社内に滞在。
「全員、犯行可能時間帯に“消えてない”」
田所は頷いた。
「つまり、“アリバイが全員成立しているようで、全員成立していない”」
次に、エレベーター記録。
「十九時前後、三階と五階を頻繁に往復している」
夏野が言う。
「三階は休憩スペースと自販機……」
「全員が飲み物を取りに行ける場所だ」
山岸は続ける。
「防犯カメラのログ。十九時十分から十九時四十分まで、会議室フロアの映像が停止」
「誰が?」
「システム管理の権限があるのは甲斐だけだが……実際の操作ログは“ユーザー不明”になっている」
田所が目を細める。
「消されてるな」
「本人は“メンテナンス自動処理”と言ってる」
「証明できない言い訳だ」
夏野が言う。
「つまり、甲斐さんは“怪しいけど確定じゃない”」
「ちょうどいい位置だな」
次に、机の位置比較。
山岸が写真を並べる。
「前日と当日で、確実に三十センチずれている」
「誰かが動かしたのは確実だ」
「ただし、床の擦過痕は“一方向だけ”」
田所が少し首を傾げる。
「一方向?」
「つまり、一度しか動いていないようにも見える」
夏野が言う。
「事故の拍子で動いた可能性も……?」
「否定はできない」
次に、副社長と経理部長のメール。
「副社長は横領を社長に指摘されていた。経理部長はその責任を押し付けられていた」
「どっちも“消えてほしい相手”だな」
山岸はさらに続ける。
「営業部長・早乙女。当日、十九時十分から十九時二十分まで、社内の喫煙所に一人でいたという証言」
「証人は?」
「本人だけ」
田所は小さく笑った。
「一番信用できないアリバイだ」
「人事責任者・神崎。当日、精神科の予約履歴があり、“事件直前に辞表を書いていた”」
夏野が目を見開く。
「それ、かなり危ない状態では……」
「動機としては十分すぎる」
「秘書・小宮山。社長のスマホから“別れ話のメッセージ”が削除されていた」
田所が言う。
「殺意の種類としては、一番わかりやすい」
山岸はファイルを閉じる。
「全員、怪しい。」
田所は静かに言った。
「だから面白い」
夏野が聞く。
「どこから疑います?」
田所は即答しなかった。
少し間を置いてから言う。
「“一番、事件に関係なさそうな奴”からだ」
「誰ですか?」
田所は資料の一人を指差した。
「営業部長・早乙女。煙草を吸いに行った男は、大抵“何かを捨てに行っている”」
山岸が苦笑した。
「……偏見じゃないのか」
「偏見は、統計だ」
窓の外では、雨が少し弱くなっていた。
だが真実は、まだ誰の顔も見せていなかった。
新宿三丁目は相変わらず人で溢れていたが、田所探偵事務所の中は静かだった。
田所は椅子に深く座り、胃薬を一粒口に放り込む。
「……まだか」
「警察は優秀でも、瞬間移動はできません」
夏野はパソコンから目を離さずに言った。
その時、ノックもなくドアが開いた。
「相変わらず嫌なタイミングで呼ぶな」
山岸が分厚いファイルを抱えて入ってきた。
「結果が出た」
山岸は資料を机の上に並べる。
「まず、入退館ログ」
六人全員、18時から20時まで、全員社内に滞在。
「全員、犯行可能時間帯に“消えてない”」
田所は頷いた。
「つまり、“アリバイが全員成立しているようで、全員成立していない”」
次に、エレベーター記録。
「十九時前後、三階と五階を頻繁に往復している」
夏野が言う。
「三階は休憩スペースと自販機……」
「全員が飲み物を取りに行ける場所だ」
山岸は続ける。
「防犯カメラのログ。十九時十分から十九時四十分まで、会議室フロアの映像が停止」
「誰が?」
「システム管理の権限があるのは甲斐だけだが……実際の操作ログは“ユーザー不明”になっている」
田所が目を細める。
「消されてるな」
「本人は“メンテナンス自動処理”と言ってる」
「証明できない言い訳だ」
夏野が言う。
「つまり、甲斐さんは“怪しいけど確定じゃない”」
「ちょうどいい位置だな」
次に、机の位置比較。
山岸が写真を並べる。
「前日と当日で、確実に三十センチずれている」
「誰かが動かしたのは確実だ」
「ただし、床の擦過痕は“一方向だけ”」
田所が少し首を傾げる。
「一方向?」
「つまり、一度しか動いていないようにも見える」
夏野が言う。
「事故の拍子で動いた可能性も……?」
「否定はできない」
次に、副社長と経理部長のメール。
「副社長は横領を社長に指摘されていた。経理部長はその責任を押し付けられていた」
「どっちも“消えてほしい相手”だな」
山岸はさらに続ける。
「営業部長・早乙女。当日、十九時十分から十九時二十分まで、社内の喫煙所に一人でいたという証言」
「証人は?」
「本人だけ」
田所は小さく笑った。
「一番信用できないアリバイだ」
「人事責任者・神崎。当日、精神科の予約履歴があり、“事件直前に辞表を書いていた”」
夏野が目を見開く。
「それ、かなり危ない状態では……」
「動機としては十分すぎる」
「秘書・小宮山。社長のスマホから“別れ話のメッセージ”が削除されていた」
田所が言う。
「殺意の種類としては、一番わかりやすい」
山岸はファイルを閉じる。
「全員、怪しい。」
田所は静かに言った。
「だから面白い」
夏野が聞く。
「どこから疑います?」
田所は即答しなかった。
少し間を置いてから言う。
「“一番、事件に関係なさそうな奴”からだ」
「誰ですか?」
田所は資料の一人を指差した。
「営業部長・早乙女。煙草を吸いに行った男は、大抵“何かを捨てに行っている”」
山岸が苦笑した。
「……偏見じゃないのか」
「偏見は、統計だ」
窓の外では、雨が少し弱くなっていた。
だが真実は、まだ誰の顔も見せていなかった。



