「四分間でできることは限られている」
田所は静かに言った。
山岸は腕を組んだまま頷く。
「暖房操作だけでは弱い。
“寒かった”と言われれば終わりだ」
「そうだ」
田所は続ける。
「だから、彼が“死体に触れた”ことを示す必要がある」
夏野が視線を上げる。
「何か残っていますか」
山岸は一枚の写真を机に置いた。
「鑑識が追加で出したものだ」
写真には、倒れた三條隆之の右手が写っている。
指先に、わずかな繊維片。
「スーツの繊維か」
「悠真の上着と一致した」
静寂。
「争った痕跡ではない」
山岸が言う。
「付着は軽微。引きずった形跡もない」
田所は写真を見つめたまま言う。
「右手だけか」
「そうだ」
「左手は」
「何もない」
田所はゆっくりと目を細めた。
「倒れ方は」
「後頭部強打。仰向け」
「右手は」
「胸の上に乗る形だった」
「自然ではない」
田所は即座に言った。
山岸が顔をしかめる。
「何がだ」
「転倒直後なら、腕は無造作に落ちる。
胸の上に整うことは少ない」
夏野が息を呑む。
「誰かが動かした」
「そうだ」
田所は頷く。
「死体を確認し、呼吸を確かめ、
そして手を戻した」
静寂。
「悠真は理系出身だ」
山岸が言う。
「脈を確認するなら、手首に触れる」
「だが繊維は指先にある」
田所は写真を指で示す。
「手を持ち上げ、胸に戻した」
山岸の目が鋭くなる。
「なぜ戻す」
「無意識だ」
田所は淡々と言う。
「人は、乱れたものを整える。
特に身内ならなおさらだ」
夏野が小さく言う。
「死亡を確認した瞬間、もう一度“父の姿”に戻した」
「そして暖房を操作した」
静寂。
「十九時二十五分入室。
死体確認。
手を動かす。
十九時二十七分暖房操作。
十九時二十九分退室」
山岸が低く言う。
「殺してはいない。
だが死亡を認識している」
「そうだ」
田所は頷く。
「死亡を認識していなければ、手を整えない」
甘い香りが漂う。
「彼は父の死を知った。
そして十九時を作った」
山岸は静かに言う。
「秘書が殺し、息子が時間を動かした」
「それで揃う」
田所は椅子にもたれた。
「残るは一つ」
「何だ」
「秘書の衝動を、どう証明するか」
田所は静かに言った。
山岸は腕を組んだまま頷く。
「暖房操作だけでは弱い。
“寒かった”と言われれば終わりだ」
「そうだ」
田所は続ける。
「だから、彼が“死体に触れた”ことを示す必要がある」
夏野が視線を上げる。
「何か残っていますか」
山岸は一枚の写真を机に置いた。
「鑑識が追加で出したものだ」
写真には、倒れた三條隆之の右手が写っている。
指先に、わずかな繊維片。
「スーツの繊維か」
「悠真の上着と一致した」
静寂。
「争った痕跡ではない」
山岸が言う。
「付着は軽微。引きずった形跡もない」
田所は写真を見つめたまま言う。
「右手だけか」
「そうだ」
「左手は」
「何もない」
田所はゆっくりと目を細めた。
「倒れ方は」
「後頭部強打。仰向け」
「右手は」
「胸の上に乗る形だった」
「自然ではない」
田所は即座に言った。
山岸が顔をしかめる。
「何がだ」
「転倒直後なら、腕は無造作に落ちる。
胸の上に整うことは少ない」
夏野が息を呑む。
「誰かが動かした」
「そうだ」
田所は頷く。
「死体を確認し、呼吸を確かめ、
そして手を戻した」
静寂。
「悠真は理系出身だ」
山岸が言う。
「脈を確認するなら、手首に触れる」
「だが繊維は指先にある」
田所は写真を指で示す。
「手を持ち上げ、胸に戻した」
山岸の目が鋭くなる。
「なぜ戻す」
「無意識だ」
田所は淡々と言う。
「人は、乱れたものを整える。
特に身内ならなおさらだ」
夏野が小さく言う。
「死亡を確認した瞬間、もう一度“父の姿”に戻した」
「そして暖房を操作した」
静寂。
「十九時二十五分入室。
死体確認。
手を動かす。
十九時二十七分暖房操作。
十九時二十九分退室」
山岸が低く言う。
「殺してはいない。
だが死亡を認識している」
「そうだ」
田所は頷く。
「死亡を認識していなければ、手を整えない」
甘い香りが漂う。
「彼は父の死を知った。
そして十九時を作った」
山岸は静かに言う。
「秘書が殺し、息子が時間を動かした」
「それで揃う」
田所は椅子にもたれた。
「残るは一つ」
「何だ」
「秘書の衝動を、どう証明するか」



